早慶ラグビーが追求する「食」「独自性」=覇権奪回をもくろむ伝統校の現在地

向風見也

魂のタックルに「独自性」を見いだす慶大

大学選手権で4連覇を成し遂げるなど、近年圧倒的な強さを見せる帝京大(赤)。果たして早慶は対抗できるのか 【写真は共同】

 伝統校に勝つべく計画的な体作りを始めた新興校が、今やその伝統校の手本になっている。皮肉な話にも映るだろうか。ただ、格闘技的要素の強いラグビーにあっては、レベルが上がるほど根源的な強さが求められる。その意味では、根本的な体質改善は誰もが着手すべき点かもしれなかった。

 もちろん、相手をまねただけの二番煎じでは栄冠には届くまい。帝京大の得意な力勝負を互角に戦い、よそにはない「独自性」と「文化」を前面に押し出す。それこそが、両校の本懐のはずだ。

 慶大は、粘り強い守備をベースに接戦を演じたい。長らく「魂のタックル」に「独自性」を見いだしてきただけに、和田新監督も「きっちりとした組織ディフェンス、タックル。これが(ベンチ入りの)1番から22番にまで必要になってくる」と話す。

 新体制のもと、部内の風通しの良さも力に変える。「まずは慶大らしくディフェンスから。あとはパスとフィットネスで勝りたい」と意気込む宮川主将は、「和田さんがチームの輪を大切にされる方で、週に1度は(150名以上の)部員が一緒に練習します。皆が一致団結している」と目を輝かせる。4月下旬からの春季大会では、6月2日、岩手・石巻総合運動公園フットボール場で早大に43−5と完勝。前年度の中位チームからなる「グループB」で、優勝を果たした。

勝つための戦法を練ることが早大の「文化」

 一方、春季大会で慶大に完敗した早大もこのままでは終わらなさそうだ。6月30日、神奈川のニッパツ三ツ沢球技場。帝京大との練習試合では17−22と競り合った。惜敗の中にも、鍛練の成果は表れていた。「去年は大きい相手とやったときに、前半は持ちこたえたのに後半は……。春はそこのベースを引き上げようとやってきた。劣勢局面を楽しめるようになってきた」。後藤監督は、かすかな手応えを口にする。

 春から初夏にかけ、とにかく走りまくった。瞬発力と持久力のアップに注力し、試合直後の短距離走は今やクラブの「恒例行事」だ。タックルしてもすぐに起き上がり、向こうが攻め出すよりも早く守備網を敷く。球を奪ったらキックで敵陣深くまで進入し、さらにしつこく守り抜く。最後は、手数の少ない攻撃で着実にスコア……。この展開を80分間、続けたい。早大の「文化」は、強力なライバルに勝てる点を創出、戦法を練ることである。身長174センチ、体重94キロのフランカー金正奎副将は言う。

「あくまで1月の試合(大学選手権)に向け、地道にやっているんです」

 夏、各チームとも長野・菅平などで合宿を行う。「食」と「独自性」を追い求める伝統校は、どんな結末を迎えるのだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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