豊田陽平が日本の前線に必要とされる時=代表に思い募らせる希代のフィニッシャー
ヘディングだけでハットトリックを達成
第4節の磐田戦ではヘディングだけでハットトリックを達成。真骨頂を発揮し、特大のインパクトを残した 【写真は共同】
1点目は、開始9分に右サイドからのクロスをファーサイドで受けて流し込んだものだった。クロスを上げた水沼宏太がドリブルで仕掛けた瞬間に、マークしていた選手の視界から消えてフリーになって決めた。動き出しといい、タイミングといい、すべての点が線でつながった見事なゴールだった。
2点目は、右からのCKを相手長身DFのわずかなギャップを突いた豪快なものだった。ゾーンディフェンスの間を突いてのシュートは、タイミングだけではなく高さも強さも必要である。GKの位置を確認しながらのヘディングシュートは決してやさしいものではない。3点目も同様に右CKからのものだった。
しかも、日本代表で1トップとしての地位を築き上げている前田の前でのハットトリックは、ファンへのインパクトも相当大きかった。この3得点で、サポーターだけではなくサッカー関係者からも代表に推す声が漏れ始めた。以降の試合には、日本サッカー協会・強化担当技術委員会のスタッフの姿が見られるようになった。
求められる新戦力の台頭
実際に代表候補にあがる若い攻撃的な選手は多い。第14節を終えたところで、得点ランキング上位を見ても、工藤壮人(柏レイソル)や渡邉千真(FC東京)、柿谷曜一郎(セレッソ大阪)ら可能性を秘めた若いFWが多い。佐藤寿人(サンフレッチェ広島)は過去に代表経験を持っている。原口元気(浦和レッズ)も自ら打破して決める実力がある。彼らが招集される可能性は高いが、彼らと比べてもフィニッシャーとしては豊田の方が勝っていると言えないだろうか。
また、前田との勝負ではなく、ハーフナーとの競争ならば、この中の誰よりも豊田陽平を推す方が現実的ではないだろうか。
14年W杯ブラジル大会で期待する結果をもたらすことが容易ではないことは、先のコンフィデ杯で証明された。現段階の日本代表をより高いレベルに引き上げるためには、現メンバーのレベルアップだけではなく、「新しい血が入ることも必要」(原博実強化担当技術委員長)の認識は間違いない。
ならば、J1で結果を出し、フィニッシャーとしての存在感を高めている豊田を招集すべきだろう。あと1年あるとはいえ、強豪相手に試す機会はそう多くない。ぜひとも東アジアカップで豊田のフィニッシャーとしての起用を提案したい。
自身の得点よりも重視するチームの勝利
「誰がゴールを挙げてもいいです。ピッチに出ている選手にはいろいろな役割があります。時には、僕が囮(おとり)にならないといけない時もあるでしょう。ボールに絡めば絡むほど、その役割の効果は大きくなります。そうなれば、周りの選手との連係も良くなります。結果的に、ゴールのチャンスも増えることになります」
豊田は、決してゴールを挙げるだけのフィニッシャーではない。周囲との連係を図りながら、惜しみなく相手にプレッシャーをかけ続ける攻撃の選手でもある。
「FWの選手として試合に出る限りは、絶対に忘れてはいけないことがあります。それがゴールであることは、これから先も変わりません。そのために、周りの選手に要求することもありますが、要求するばかりではサッカー選手として成長はありません。求められれば、できる限りはそれに応えるようにしています。不得意なことを求められるときもありますが、今の鳥栖でプレーをする限りはやらないとチームの結果にはつながりません。繰り返しになりますが、僕が得点を挙げるより、誰かが得点を挙げて勝ち点3を取れたほうがうれしいです」
誰よりもチームの勝利を求め、誰よりもゴールに迫り、誰よりも走り続けるFW豊田陽平。今こそ、日本代表に彼みたいなFWが必要ではないだろうか。
<了>