セレソンに進むべき道を示したスコラーリ=W杯優勝候補に急浮上したブラジル

再び1つのファミリーとなったセレソン

スコラーリの下、勝利を重ねファミリーとなったセレソン。一躍、優勝候補にも名を連ねた 【写真:ロイター/アフロ】

 スコラーリの下、ブラジルは自分たちの限界がどこにあるのかを心得た上で、チームとして機能する術を学びはじめた。美しいプレースタイルを確立したわけではない。スーパーな“クラッキ(名手)”を擁するわけでもない。だが、チームには各ポジションにバランス良く有能な選手がそろい、好不調の波はあるものの、乗った際には試合を決めることができる若きタレント、ネイマールがいた。

 スコラーリは過去のチーム作りと同じく、セレソンを1つのファミリーとして育てた。ボールを持たない際の相手チームへのプレッシングを徹底し、前線には3人のFWを並べ、最大の問題点である中盤の構成力不足は両サイドバック(SB)の攻撃参加で補った。特に左SBのマルセロは、攻撃時ほぼピボーテ(中盤の底でパスをさばいて攻撃の軸となる選手)のようにプレーしていた。

 そして、ブラジル対スペインという誰もが待ち望んだカードになった決勝では、組織的なハイプレスとパウリーニョやダビド・ルイス、ジュリオ・セーザル、そして攻撃の中心に成長したネイマールらの個の力により、6年近くも栄華を誇ってきたスペインを完膚(かんぷ)なきまでにたたきのめした。

 フレッジが開始早々の2分に奪った先制点。その精神的ダメージが大きかったのは確かだ。それでも立て直し、試合を盛り返すのが世界王者である。だが“ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)”はほぼゴールライン上でダビド・ルイスにクリアされたペドロのシュートシーンを除き、何の抵抗も見せることができなかった。イーブンボールの争いはすべて、これが生涯最後のチャンスであるかのようにぶつかってきたブラジルの選手たちが制し続けた。

偶然と言うことはできないブラジルの優勝

 大会前のチーム状況を考慮すれば、決勝まで勝ち進んだ時点で今大会の出来は上々と評価できるものだった。だが、あの決勝を終えた後のブラジルは、チームとして戦う術と勝者のメンタリティーを身につけただけでなく、セレソンに対して常に批判的であり続けてきた国民をも味方につけた。マラカナンをカナリア色で埋め尽くした7万人超の人々は、選手たちの名を叫び、ネイマールがボールを持つたびに総立ちで後押し、相手にPKを与えた際も、ジュリオ・セーザルが安心感を覚えたほどだった。

 一方、スペインにとってこの大敗は重要なテストとなった。プレースタイルを変える必要はない。だが、高いボール支配率がチャンスの数に結びつかない悪癖など、長らく指摘されてきたいくつかの問題点については解決策を再考すべきだ。それは約1カ月前、欧州チャンピオンズリーグの準決勝で、バイエルン・ミュンヘンがバルセロナに与えたのと同じ教訓であることは偶然ではない。今大会を通し、南米のW杯では観客の熱が試合に影響を及ぼす重要な要素となり得ることも痛感したことだろう。

 そして、ブラジルの優勝を偶然と言うことはできない。90分を通してスペインを圧倒し、イタリア相手に4ゴールを挙げた彼らは、決勝後の会見でスコラーリが言っていた通り、来年のW杯における優勝候補の一角に浮上した。

“フェリポン”はほかの優勝候補としてドイツ、スペイン、アルゼンチンを挙げていた。なお、アルゼンチンは世界最高の選手であるリオネル・メッシを擁しているものの、どのような状態で本大会を迎えるかは分からない。現状AFAには、べレス・サルスフィエルドとボカ・ジュニアーズを率いてコパ・リベルタドーレスを4回、トヨタカップ(現・クラブW杯)を4回制した同国最高の監督、カルロス・ビアンチを招へいする気概がないからだ。

 その傍(かたわ)ら、バルセロナのファンはネイマールとメッシのデュオが見られる新シーズンを想像し、悦(えつ)に浸っている。無理もないことである。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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