高校サッカー指導者が語る日本代表の課題=世界との差は育成環境の整備が埋める

小澤一郎

「チームプレーの重要性を確認できた」

成立学園の宮内聴総監督は、今の日本に必要なFWは佐藤のような2列目と連係が取れる選手だと話した 【Getty Images】

 3戦全敗に終わったコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)を受けて、日本代表の周辺では様々な議論が沸き起こっている。ワールドカップ(W杯)本大会まで残り1年を切った中で今回の結果を多角的に検証していくことが必要不可欠だが、コンフェデ杯でも課題として挙がったのがスコアに直結してくるセンターバック(CB)とフォワード(FW)の力、選手層だろう。とはいえ、前回のW杯王者で現在のサッカー界をリードするスペイン代表もこの問題に直面しており、CBやFWの人員不足に悩んでいない国自体が少ない。だからこそ、サッカー界の移籍マーケットではFWのみならず、近年はCBにも高額な移籍金が付くわけで、日本のみが長年抱える課題ではないことは前提としておさえておきたい。

 その前提を踏まえた上で、今回は「育成」視点でコンフェデ杯の日本代表、CBとFWの育成法について考えていきたい。そのために話を聞いたのが今年度の夏の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)で東京都代表となった成立学園高校と國學院大學久我山高校の指導者だ。大津祐樹(VVVフェンロ)の母校である成立学園の宮内聴総監督はコンフェデ杯での日本代表の3試合を見て、「改めて日本のストロングポイントであるグループ、チームでプレーすることの重要性を確認できた」と語る。W杯出場決定後に本田圭佑(CSKAモスクワ)が「いかに個を高めるか」という発言をしたことを受けて宮内総監督も「個の力が上がった上での組織」であることは十分に理解している。しかし、「代表になってからでも遅くはないのだが、世界との戦いを視野に入れたときには育成年代で世界との差を埋めるべく個人を鍛える必要がある」と指摘する。

FW育成で大切なこと「蹴り込む」

 宮内総監督は日本代表として長年活躍した元選手であり、指導者としてもサッカー日本女子代表監督を務めるなど世界トップレベルを肌身で知る人物であり、だからこそ「世界から逆算した育成」を常に意識した指導を心掛けている。成立学園在学時は1年生のときからドリブルでの仕掛けや、中盤でのゲームメークに非凡な才能を見せていた大津に関しても宮内氏は「日本に一番足りないのは『点を取る』ことであり、だからこそうまい選手はセンターフォワードで使う」という持論の下で育成してきた。その宮内総監督は今の日本代表のFW像についてこう語る。

「ポストプレーヤー、ターゲットになるFWも必要かもしれませんが、私は日本のスタイルを生かしたセンターフォワードを見たい人間です。前線で張り付くことなく、動きの中でサッカーをやるというか、日本の持ち味である2列目の選手との連動性でボールを受け、相手を撹乱する、よく言われるように佐藤寿人(サンフレッチェ広島)のようなセンターフォワードですね。そうなってきたときには当然大津のような選手も(FWのリストに)入ってくると思います」

 ただ、宮内総監督がFW育成で大切にしていることは他のポジションと変わらず「蹴り込む」こと。「FWの選手には高校3年間でいろいろなイメージを持たせてシュート練習させますが、どういうイメージのシュートを打つか以前にボールをより強く、より遠くにキックできるかどうかが大切です。成立の指導者間では『蹴り込む』という表現を使うのですが、蹴り込んだ選手は間違いなくキックの精度が上がりますから、シュートの精度も上がります」

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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