高校サッカー指導者が語る日本代表の課題=世界との差は育成環境の整備が埋める

小澤一郎

CBに「とにかく高さ」はナンセンス

バロテッリ(青)のように頑強で速い選手が増えている中、日本のCBは高さよりも俊敏性を重視すべきと語る國學院久我山の李監督 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 FC東京からスペイン2部CEサバデルへの期限付き移籍が発表された田邉草民の母校でもある國學院久我山の李済華(リ・ジェファ)監督にはCBの育成について話を聞いた。アジア予選での韓国戦を筆頭に日本では国際大会で敗れる度に「CBの高さ不足」が叫ばれるも李監督は「日本人CBは本来、180センチ前後あれば十分世界で戦える」と話す。その理由について李監督は、「世界には(マリオ・)バロテッリや(ズラタン・)イブラヒモビッチのような大型で屈強なFWがいますが、今のサッカーではそうした大型な選手でも俊敏になってきている。加えて、世界的には(リオネル・)メッシ、ネイマール、(セルヒオ・)アグエロのような選手がストライカーとして活躍しているのですから、俗に言う頑強さではなく俊敏性がCBにも求められていると思います」と説明する。

 確かにこれまでのサッカーの歴史を振り返ると、李監督が「理想的なCB」として名前を挙げたアルゼンチンのパサレラ、イタリアのバレージ、カンナバーロといったCBは見た目の身体能力はさほど高くない。しかし、ポジショニングやカバーリング、ジャンプヘッドのタイミングやジャンプの滞空時間といった高さ、強さとは異なる優れたフィジカル要素を持ち、カンナバーロに至っては180センチをきる身長でCBとして2006年のバロンドール(年間最優秀選手賞)を受賞した。もちろん、CBは高さ、強さが求められるポジションゆえに、高いCBに越したことはないだろうが、日本人の身体的特徴を踏まえたときには「とにかく高さが必要」という基準でCBを育成することは李監督から言わせると「ナンセンス」。

 この点については、成立学園の宮内総監督もこんな話をしていた。「特に大学のトップクラスの監督が選ぶCBはもう『デカければ良い、合格』となります。こちらが『絶対こっちの選手の方が良いし、この選手を鍛えて下さい』と言っても、『大学サッカーはロングボールがガンガンくるので』となって取ってくれないことがあります。その辺りは、指導者間でもっと連携しながら、バトンタッチしながらCBを育成していかなければいけないと思います」

勝つためだけのサッカーは選手育成にならない

 このテーマの取材をするにあたり宮内総監督と李監督の二人の指導者を選んだ最大の理由は、彼らが指導する高校が全国大会に出場したからではなく、高校サッカーの指導者ではあっても「世界」を見据え、そこから逆算した選手育成のためのサッカーを志向しているからだ。サッカーのスタイルに正解はないとはいえ、私は育成年代においてボールを放棄し、奪ったボールを素早く前線に放り込むようなサッカーはそのカテゴリー、大会で勝つためだけの刹那的なサッカーにしかならず、本当の意味で次につながるサッカー、選手育成にはならないと考えている。強国相手の3連敗とはいえ、コンフェデ杯で突きつけられた日本の課題というのは単に監督のさい配や戦術、選手個々の力の差のみならず、育成年代の環境やそこでのサッカーの積み重ねにあると感じる。

 今回はCB、FWという特定のポジションを取り上げたものの、結局のところ世界で通用する日本人CB、日本人FWを育成するためには育成年代からボールをつなぐサッカーの中でテクニックと状況判断を磨き続けるしかない。もしそれを「個の力」と総称するのであれば、個を伸ばすためには緊張感のある公式戦での試合経験が何よりも重要になってくる。それを実現するための年間リーグが日本の育成年代で各カテゴリーに整備されているのかどうか。レギュラーのみならず「補欠」と呼ばれてきたような選手にも公式戦の場が与えられているのかどうか。日本代表、コンフェデ杯とはもっともかけ離れた場所かもしれないが、底辺の整備が進まない限り、世界との差は縮まらない。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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