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銃声とともに幕を開けたコンフェデ杯
ゴール裏で見たブラジルの圧倒的な力

会場周辺に鳴り響いた突然の銃声

機動隊が催涙弾を放ちスタジアム周辺はパニックに。ツーリストインフォメーション出張所のボランティアたちも震えていた。
機動隊が催涙弾を放ちスタジアム周辺はパニックに。ツーリストインフォメーション出張所のボランティアたちも震えていた。【中田徹】

 コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)のブラジルとの一戦を前に、続々とエスタジオ・ナシオナルに集まって来るブラジルサポーターたちの姿が壮観で、それを眺めていた僕はなかなかスタジアムの中へ入れずにいた。キンキンに冷えた缶ビールを飲みながら、僕はブラジル人と「ブラジル2! ジャポン0!」「いいや、ブラジル2! ジャポン3だ!」などとたわいもない会話で盛り上がりながら、最後は「ボア・ジョーゴ!(良い試合を)」とエールを送って別れるということを繰り返していた。


 スタジアムの入り口正面にはデモ隊もいた。彼らの掲げる不満は多岐に渡っていて、いまひとつ、何を要求しているのかハッキリしなかった。かなり人数は多かったが、本当に穏やかなデモだった。とはいえ、何がキッカケでトラブルに発展するか分からなかったので、僕はデモ隊とはある程度距離を置きながら、試合前のスタジアム周辺を楽しんでいた。


 ツーリストインフォメーションの出張所の辺りで、アンケートの回答を求められ、「どこの国から来たの?」、「何日いるの?」、「ブラジリアには何泊するの?」といった簡単な質問に僕は答えていた。すると、“バババババーン!”といきなり銃声がした。機動隊がデモ隊に向けて何かを放ったのだ。僕はすかさずツーリストインフォメーションに潜って隠れると、「怖い怖い」と言いながら銃声がやむのを待っていた女性ボランティアたちと視線があった。


 やがて騒ぎが収まり、英語が流ちょうな青年ボランティアが、デモ隊に理解を示しながら、怒ったような口調で話し出した。

「ブラジリア州は腐っている! このデモは州への抗議デモなんだ。まず病院。施設は古く、医者は少ない上に腕も悪い。だから、病院に行くことは、死にに行くことだと俺たちは思っている。教育や行政もそう。非常にレベルが低いんだ。なのに見ろよ。この巨大なスタジアムを。たった1試合しかコンフェデ杯で使わないのに、作っちゃったんだぜ。治安も悪い。今日、ブラジリアの町が平和そうに見えるのはコンフェデ杯があるからだ。ここでは年間300件の発砲事件がある」


 デモ隊のひとりが足を負傷して倒れていた。救急車が到着し、仲間たちの拍手の中、彼は病院へ運ばれていった。それが休戦終了の合図だった。機動隊がまたしても何かをぶっ放し始め、そのタマは地面の上で煙を上げていた。すると僕の目に刺激が走り、それが催涙弾だと理解した。デモ隊が逃げ、追いかけられるように、ブラジル人サポーターも逃げ出す。いったいどこまで走れば安全なのだろう!? 


 ずいぶん前だが、アヤックスがオランダリーグで優勝した日に、アムステルダムの町中でサポーターが暴れ、機動隊が催涙弾を打ちまくり、僕もそれに巻きこまれたことがあった。あのときは涙がボロボロ止まらなかったが、今回の催涙弾はずいぶん軽いようで、ほとんど涙はこぼれなかった。むしろ怖かったのは、背中などにタマが直撃することで、この場にいつまでも居ては駄目だ――僕は入場ゲートへ一目散に走って、スタジアムの中へ入った。

国内で批判を受けても日本を圧倒する力

得点を喜ぶブラジル代表の選手たち。いとも簡単に日本ゴールをこじ開けた姿は昨年からの力関係が変わっていないことを示した
得点を喜ぶブラジル代表の選手たち。いとも簡単に日本ゴールをこじ開けた姿は昨年からの力関係が変わっていないことを示した【Getty Images】

 スタジアムの中は、外とは打って変わって平和だった。僕のチケットはゴール裏1階席だったが、ここには日本人がほとんどおらず、前後左右に座るブラジル人たちからずっとからかわれ続けた。日本の勝利を信じる僕は彼らに反論しては失笑を買った。


 スタジアムはとても見やすかった。前半に本田圭佑が蹴ったFKが左へ曲がって右へコースを変えたが、GKジュリオ・セザールがギリギリまでボールの軌道を見極めてはじく。その一連のボールの動きが、ゴール裏からハッキリと見えた。さらに悔しいことに、ブラジルと日本の間に埋めようもない差があったことも、ゴール裏からハッキリ見えた。昨年10月、0−4という大差で終わった両者の力関係は、まったく縮まっていなかったのだ。


 ルイス・フェリペ・スコラーリ監督率いるブラジル代表は、国内で大きな批判を浴びていた。試合当日の朝、ブラジルで著名な評論家が「あり得ないことだけど、アルゼンチン人のマルセロ・ビエルサがブラジル代表を率いてくれないだろうか。彼ならきっとブラジルを攻撃的なサッカーにしてくれるはずだ」と書いているのを見つけた。今のブラジルは守備的でつまらないというのが、国内での批判のひとつなのである。しかし、目の前で戦うブラジルは、確かにかつての優雅さこそないけれど、それでも4−2−4とも呼べるフォーメーションで、しかも両サイドバックが同時に日本陣内に侵入することもしばしばだった。


 サッカーは競い合うことによって緊張が生まれる。残念ながら、ブラジル対日本の試合は、その緊張感があまり感じられなかった。

 同じことは、日本代表というチームそのものにも感じた。最近の日本代表は顔ぶれが固定されてしまい、チーム内競争の緊張を感じられないのである。ワールドカップ予選も通過した今、しばらく失うものはない試合が続く。ここはぜひ、新戦力の発掘によって、新たな化学反応をチーム内に作ってほしい。


<了>

中田徹
中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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