スポーツマーケティングの第一人者、仲澤氏が語る「ファンの育て方」
ファミリー層を狙ったJリーグの「コナンシート」
ファンを育てるには「どこの誰をどこへ連れて行くのか」を明確にすることが重要。仲澤氏はラグビー界一丸となってW杯を迎えられるように、とエールを送る 【スポーツナビ】
「もちろん、こうした企画には当然のことながら、関係者の間でも賛否両論があったと聞いています。『本当のファンが育つのか』『邪道だ』というステレオタイプの意見がありました。じかしながら、重要なことは、コナンシートに来場された家族をサッカーファンに育てることです。さまざまな企画はコミュニケーションの出発点であり、その後、きっちり(プロダクトの中核となる)スポーツの魅力の理解者になってもらうことが重要です。コントロールできる範囲で、間口は広い方がいいのです」
新規ファンを掘り起こすことは簡単ではないが、そこに取り組まなければラグビーの発展、普及はあり得ない。そのためには、ターゲットを明確にし、ときに邪道に映る施策も必要になるだろう。6年後にW杯を控えた日本ラグビー界に、仲澤氏はこう提案する。
「ファンをどう育てるのか。どこの誰(標的)をどこへ連れて行くのか(学習支援などリードアップのビジョン)。製品拡大の際は、こびてもいいから間口を広くして確保していく。そのときに連峰型のファンづくりができるかが課題になってきます。やがて消費者から市民、そして観戦文化の担い手になっていってもらう。ラグビーが社会的関心事としての存在感を発揮すれば、その社会的機能は高まり、人々のボランタリズムを喚起することにもつながります。また、(各代表チームの)キャンプ地でもできることはあります。例えばサッカーW杯では大分県・中津江村が有名になりました。当時の小学生は現在大学生になり、交流は今も続いています。こうしたサッカーを越えた社会的機能も必要。マイナースポーツが国際大会を開く際のヒントになるのが、代表戦でのプロモーション活動ですね。そして19年を迎える前に、国内リーグでも活用していってほしいと思います」
ラグビー界一丸となってW杯を迎えられるか
以下は質疑応答、ディスカッションの一部。
――ラグビーファンの年齢層はサッカーよりも高そう。19年W杯に向けて、どうやって若者を取り込んでいけばいいのでしょうか?
邪道と思われることにも取り組んでいくのがいいと思います。コナンの企画は、小さな子供を持つ家族での来場を促しただけでなく、若年層を新たにスタジアムへ運ぶ効果がありました。今後、その試みは大きな果実をもたらすと思います。若返りを考えたとき、「誰を狙うのか」をまず決めて、次にどうアプローチするのかが重要になってきます。最後は効率ですね。狙ってみたけれど、本当にスタジアムに足を運ぶのか。具体的には、若者に訴求するメディア、そこに載るために何を工夫するか、を考える必要がありそうな気がします。
――ラグビーを知らない人をキャッチできる方法として、友達を連れていくとチケットが無料になる、何か特典がある、というキャンペーンがあったら面白いと思うのですが、どうでしょう?
それを関係性マーケティングと呼びます。今いるファンを維持して、活用するという戦略ですね。とてもいいアイデアだと思います。日本ラグビー協会は、19年W杯で観客動員200万人という目標を掲げています。1試合平均4万3000人です。これは候補に挙がっているスタジアムの平均キャパシティーを越える計算になります。今、ラグビー協会に登録しているのは12万人です。その人たちに「2人連れてきてください」と呼びかけても36万人と、まだまだです。200万人を達成するには、本当にいろいろな仕掛けをしていかないと厳しいのではないかと思います。
――19年をゴールとしていくのか、それともW杯は通過点として、その先を見据えてマーケティングを進めていくのか、どちらが大切でしょうか?
通過点にしか過ぎないというのが前提だと思います。トップリーグが19年にどれだけ関われるか、そのシナリオが描けているか、ですね。サッカーの場合、Jリーグのチケットから席種にかかわらず、すべてのチケットから100円をW杯のために使いました。みんなが同じ絵を描きながら取り組めるかが重要です。それと同じようなことがトップリーグでできるか。ラグビー界一丸となってW杯を迎えられるか、ということですね。それぞれの立場で、19年に対して何ができるかを洗い出すことが、大事なスタート地点になると思います。
仲澤眞氏に聞く「あなたにとってラグビーとは」
<了>
協力:(公財)日本ラグビーフットボール協会