工藤公康に聞く、藤浪・雄星ら好調の要因
工藤氏は藤浪の腕が遅れて出てくるフォームについて「バッターはタイミングがとりづらい」と分析する 【写真は共同】
現役時代通算224勝をあげ、現在はプロ野球解説者として活躍する工藤公康氏に、現在好調のピッチャーが活躍できている要因について、話を聞いた。(インタビュー日 5月13日)
※文中の数字は、交流戦開幕時
新人投手が好結果、理由は心理状態
224勝左腕・工藤氏が見た藤浪、雄星ら好調の要因とは? 【スポーツナビ】
まず、この時期の新人投手の心理状態を知っておくと良いでしょう。新人はまだ「先」を見る余裕がなく、自分が投げる試合に向かって一生懸命に調整しています。試合においても、1球、1打者、1イニングという考えで投げることができる。これが良い結果につながっているように感じます。
――良い意味での「無心」「無欲」が好成績につながっていると。
エースやベテランになってくると、前日の試合までに中継ぎ投手が登板過多になっていれば、「俺が完投して、中継ぎを休ませなければいけない」、チームが連敗していれば、「俺が(連敗を)止めなければいけない」など、調整の段階でいろいろ考えてしまうものなのです。
――対戦相手からすると「データが少ない」ということも、新人投手には有利に働いていますか?
それもあるでしょう。もっと言えば、ボールの角度や球筋です。一口に「スライダー」といっても、100人ピッチャーがいれば100通りのスライダーがあり、曲がる幅が違えば、曲がる場所も違う。
バッターは、対戦する投手の球種や球筋を頭に入れて、その球筋に合わせてスイングをします。逆に言えば、頭に入っていない軌道のボールがくると対応しづらいわけです。このあたりは数字だけのデータでは見えてきません。数多く打席に立ち、ボールを自分の目で見ることによってわかってくることです。
菅野はアウトローのコントロールが良い
そう感じます。ストレートだけでなく、スライダーを中心にしたコントロールが良い。ピッチャーの生命線であるアウトローにきっちりと投げられるコントロールを持っています。また、余計なフォアボールを与えていないことも、勝てるピッチャーの条件と言えます。
――「アウトローが生命線」とはよく耳にする言葉ですが、その真意はどこにあるのでしょうか?
バッターにとって、自分の目から一番遠いボールです。想像できると思いますが、日常動作でも何にしろ、目の近くで動作をした方が確実に行えますよね。バッティングも同じ。目から遠いところは、ミートしづらい。そのため、初球からわざわざ狙って打つケースは少ない。つまり、アウトローに投げられれば、ピッチャー有利のカウントで進めていくことができるのです。
藤浪は動く球が「個性」、武器になる
こちらも前回お話ししたとおり、動くストレートが武器になっています。バッターとしては、あの動く球が気になってしまう。そこに頭があるため、スライダーやカーブをとらえ切れていません。
プロで先発として活躍できるピッチャ―は、私の経験上、最低4つ以上の球種と、独特な軌道を描く「個性」あるボールを持っていることが必要だと思っています。
昨年高卒ルーキーで8勝をマークした武田翔太投手は、鋭く速く落ちる独特のカーブがありました。この軌道にバッターが対応できなかった。もともとストレートも球威がありますから、よりカーブは生きてきますよね。
藤浪選手にも、自分の「個性」あるボールを磨いて、武器にしてもらいたいです。
――バッター心理として、動く球が気になるという点をもう少し詳しく教えてもらえますか?
ふたつの要素があります。まず、動く球は打ちづらいので、それを頭に入れて打席にのぞみます。もうひとつは、高卒の新人投手ということ。プロのバッター心理からすると、「ストレートを打ってやろう」「ストレートでは抑えられたくない」と思うものなんです。
――プロの先輩としての「プライド」があるわけですね。
あとは藤浪投手の場合はフォームですね。腕が遅れて出てくるために、バッターはタイミングがとりづらい。対戦を重ねていかなければ、なかなかタイミングが合ってこないのでしょう。
――14日から交流戦に入りました。「初」の対戦が続くことで、データが少ない新人投手には有利な状況になるでしょうか?
難しいのは、ピッチャーの調子の良さは1カ月〜1カ月半ぐらいしか続かないということです。1年間ずっと良いなんてことはあり得ません。どこかで体か頭が疲れてくる。状態が悪いときに、「悪いなりのピッチング」ができるかに注目してみるといいでしょう。つまり、「低めやコースを丁寧に突こう」という意識、集中力を持ちつづけられるかでしょう。