篠塚和典が魅了された素顔の長嶋茂雄「私もミスターの1ファンだった」

構成:スポーツナビ

篠塚氏のスタイルつくった「見逃し三振するな」の助言

時折、突拍子もないことをして周囲を驚かした長嶋氏。篠塚氏は天賦の才であり、「ミスターなら何かしてくれる」という期待感を周囲に抱かせる要因と分析する 【スポーツナビ】

――その中で特に印象に残っている言葉はありますか?

「『見逃し三振はするな』というのは強く印象に残っていますね。だから、私は四球を選ぶことが嫌でした。際どいコースのストライク・ボールの判定を自分でするのは本当に難しいこと。その難しい判定をして見逃し三振をするよりは、際どいコースは自分でさばいてしまえばいいだろうと思っていましたから。
 このスタイルは、ミスターに言われたことが良い意味で影響しましたね。

 ミスターとの打撃練習で印象深いことがもう1つあります。
 ミスターはちょっと体を動かしたいなと思った時、バッティングピッチャーをするんです。入団2年目だったでしょうか、初めてミスターが私の練習の時にバッティングピッチャーに来られました。初めてミスターの球を見るので、初球、ど真ん中の球を見逃したんですね。そうしたら2球目は私の頭の上に投げられてしまいました。『1球目のボールを何で振らないんだ』ってストライクを簡単に見逃したことに対する無言のメッセージだったと思います。
 同じようなことは2年目か3年目のオープン戦でもありました。スタメンで出場し第1打席で見逃し三振をした時に、それだけで交代をさせられました。

 私の場合、言葉で何かを言われるというよりも、バッティングピッチャーでビーンボールを投げられたり、1打席で交代させられたり、それで何かを感じ取りなさいって指導が多かったですね」

――松井秀喜選手との話で、よく「素振り」というキーワードが出てきますが?

「ミスターは絶対に人前で素振りの指導はしませんでした。違う場所で、個人単位でされていました。私個人にはありませんでしたね。何でなかったか分かりませんが……。
 ミスターは音に敏感でしたね。スイングのどこで音が鳴っているかを気にしていましたね。形云々もあると思いますが、バットが振れているかの確認を音で認識していました。目をつぶって音を聞いて『もうそれでいい』で終わったりしていましたね」

ミスターはやはりスター

――長嶋さんと言えば、突拍子もないことをするということがありますが、篠塚さんにもそういう思い出はありますか?

「2年目か3年目だったか、左の代打って当時、柳田(真宏)さん、山本功児さん、原田(治明)さんと私の4人がいて、ピッチャーが早いイニングで打たれて、試合序盤で左の代打要員は準備をしておけと言われたんです。こういう時は一番年齢が若い、自分が出番なのが通常なので行く気でいたんですが、ミスターから『お前はまだ早いから待っておけ』と言われたので、準備もせずベンチで座っていたんです。
 しかし、いざミスターが代打を告げると『代打・篠塚』って声が聞こえるんです。びっくりしっちゃって(笑)。結果も良くなかったと記憶しています。

 私生活でもレストランですいかの甘い上の部分だけ食べちゃうとか、パンを半分にちぎって食べて半分だけ残しておくとか……いろいろありますが、そういう方だったので、野球だけでなく、ミスターがいるだけで『何をやるのかな』って期待を込めて注目してしまいますよね。だから、『ミスターなら何かしてくれる』という期待を持てる方になったんでしょう」

――すべてがミスターの魅力なんですね。

「近くにいる私でさえ、ミスターのファンになってしまうのだから、外から見ている、直接接しない方はもっとファンになるんでしょうね。
 昔は、グラウンドから、遠くから見るだけでしたから、よりミスターのカリスマ性、スター性が際立っていたように思いますね。近寄りがたい、雲の上の存在としてミスターはやはりスターですね」

――今回、長嶋さんが国民栄誉賞を受賞されましたが?

「ミスターは昭和34年から日本中を元気にさせてきた、国民が認めるヒーローだと思います。これだけ長く、そして老若男女問わず愛されてきた方というのはいないんじゃないでしょうか。時期としては遅いくらいだと思いますが、今回受賞されたことに、自分のことのようにうれしい気持ちです。
 そういった表彰に、いち選手、いちファンとして、ミスターに関わっていられたというのはとても幸せなことです。今思うのはいつまでも元気でいてほしいということですね」

<了>

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