さいたまダービーが持つ国際基準とは=浦和と大宮の間に生まれた新たな因縁

加藤康博

浦和と大宮の歴史的なライバル関係

さいたまダービーは国際基準を備えている。今回の対戦で浦和と大宮の間には新たな因縁が生まれた 【写真は共同】

 ここからは、さいたまダービーを例にして、日本における「ダービー」の定義を考えてみたい。日本では同じ都市に本拠を構えるチームの対戦を無条件に「ダービー」と呼ぶだけでなく、ともすればこじつけとも思えるような結びつきを見つけては対決の構図を作り、ファンを煽(あお)ることもある。Jリーグが20年を迎えた今日、日本独自のダービー文化が生まれることに異論はない。しかし、ヨーロッパや南米では単に地理的な要因だけでダービーが語られることは少なく、そこには必ずと言っていいほどピッチ内外での歴史的なライバル関係が背景にある。それは民族や宗教、政治による対立であり、中にはサポーターの所得格差というケースも見られる。日本ではそのような対立軸が見いだしづらく、かつJリーグの歴史が浅いため、「日本に本当のダービーはない」という意見も時に聞かれる。

 しかし、浦和と大宮の戦いは歴史的な背景を含め、いくつかの「ダービーの国際基準」を備えており、今後、日本を代表するダービーへと発展する可能性がありそうだ。

 県庁を擁する文教都市として歴史を持つ浦和と、商業都市として発展してきた大宮。その政治的な主導権争い、主に県庁をどちらに置くかの駆け引きは明治時代から続いている。合併して自治力の強化を図ろうという動きも古くからあったのだが、どちらも折り合うことはなく、幾度となく頓挫してきた。2001年に両市は合併(与野市を含めた3市によるもの)したが、その際も新市名、そしていくつの自治体で合併するかなどで交渉が難航した経緯がある。

 ことサッカーに目を向ければ、浦和は常に大宮に先んじて結果を残している。全国高校サッカー選手権では戦後、浦和高校、浦和市立高校などが相次いで優勝を成し遂げ、Jリーグでも浦和は発足時の「オリジナル10」のメンバーとしてスタートを切った。大宮は日本で最初のサッカー専用スタジアム、大宮公園サッカー場(現NACK5スタジアム)という日本サッカーの聖地を擁しながらも、プロ化も後発となり、常に「サッカーのまち浦和」に追随する立場に甘んじてきた。大宮のサッカー関係者の抱いていた悔しさは容易に想像できる。さいたまダービーにはこうした背景があるのだ。

昨年の浦和戦から無敗記録が始まる

 また、ダービーには歴史に残る名勝負が欠かせない。記録、そして記憶に残るゲームを重ねていくことで、その重みを増していく。

 海外に目を向ければ03−04シーズンにアーセナルがシーズン無敗でプレミアリーグ優勝を果たしたが、それが決まったのはトッテナムとのノースロンドンダービーだった。今でもロンドンに行けば、無敗による優勝を自分たちのホームスタジアムで決められたことを嘆くトッテナムファンに多数、会うことができる。

 こうした時代を経ても語り継がれる試合が生まれるには時間がかかるが、今回のさいたまダービーもすでに歴史に残る一戦だったと言えるだろう。大宮の無敗記録が昨年の対浦和戦から生まれたことも何やら因縁めいている。

ともに優勝を狙える位置での再戦となれば

 そして最終的にダービーで最も重要なのは理屈抜きの熱量だ。歴史的、社会的な背景を知ろうが知るまいが、他チームとの対戦とは決定的に異なる形で表現される熱さこそ、ダービー必須の要素である。

 前述の通り、さいたまダービーのJ1での対戦成績はこれで大宮の7勝5分け5敗。しかも11年シーズンから大宮は負けていない。多くの場合においてリーグの順位では浦和が上位にいながら、大宮はダービーになると強さを見せている。要はリーグの順位だけでは測れない力を発揮しているのだ。

 クラブの規模や実力差を超越した戦いが繰り広げられることこそ、ダービー最大の醍醐味(だいごみ)。それはメディアや集客のための広報戦略だけでは決して生まれない。

 もちろん、試合が過度の遺恨を残したり、他要素における対立の代理戦争となってはならない。そうした暴力性が少ないところが日本のダービーの良さであり、すでに世界に誇れる点だ。ここだけは歴史を重ねても維持されてほしい。

 次のリーグ戦での対決は10月5日、埼玉スタジアムで行われる予定だ。浦和は目の色を変えて臨んでくるはずだが、大宮も埼玉スタジアムを苦手にしていない。ズラタンは「(無敗記録は)意味のあることだと思うが、最も重要なことではない。最も重要なのはリーグ終盤も今の順位にいること」とこの日の試合後に語ったが、ともに優勝を狙える位置での再戦となれば、今回以上に熱い戦いになることは想像に難くない。さいたまダービーの歴史は今後どのようにつむがれるのだろうか。次回の対戦が今から楽しみだ。

<了>

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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