田中達也、新潟移籍後も衰えぬ情熱=戦力外通告を受けた浦和との対戦へ
「応援してくれる人がいる限り、闘い続けたい」
第3節終了時点で無得点と新天地ではまだ気負いが見える。古巣相手に初ゴールはなるか 【Getty Images】
「お前はサポーターにしっかりと言葉で伝える責任があるんだよ」
達也は今まで、どんなにうれしくても、悲しくても、人前で泣くことはなかった。プロの責任は結果を残すことで、泣いて許しを請うなどもってのほかだと思っていた。しかし浦和での最後のあいさつで、チームメートもサポーターも自分のために涙を流してくれたのを見て、感謝と、皆の期待に応えられなかったふがいなさに打ちひしがれて涙が止まらなかった。そしてこう思ったという。「僕を応援してくれる人がひとりでもいる限り、自分はその人のために闘い続けたい」と。
昨季Jリーグ最終節には辛苦を共にした家族を伴っていた。妻、現在7歳の長女、5歳の次女の4人家族。次女はまだ父親の境遇を理解できないでいるようだったが、小学生になった長女は父親の偉大な姿を胸に刻んでくれたかもしれない。かねてより「子供たちはまだ幼いから、僕のプレーしている姿を忘れちゃうかもしれない。だから子供が小学生になるくらいまでは、現役でピッチに立っていたい」と語っていた父親は、埼玉スタジアムを埋め尽くしたサポーターに別れを告げる中で、すべてを理解し嗚咽する長女と、興味深そうに目をキラキラと輝かせてスタンドを見渡す次女を常に傍らに寄せていた。
「アルビに骨を埋める覚悟で闘う」
新潟のオファーを受け、それを即決した達也は「アルビに骨を埋める覚悟で闘う」と言った。その言葉に偽りはないだろう。達也はいつだってチームのために、サポーターのためにサッカーをプレーし、勝利を目指してまい進してきた。浦和レッズからアルビレックス新潟へとチームが変わっても、その思いは不変だ。
全身全霊を傾けて浦和を倒す
しかし、過剰なくらいの気負いもまた、この選手らしい所作だ。手を抜き、楽をした時点で仲間やサポーターの信頼を失う。それを十分理解しているからこそ、彼はいつでも鬼のような形相でピッチを駆ける。
達也はよく自らの名前を客観的に用いる。自己を含めたプロサッカー選手に厳しい目を向け、常に向上心を怠らず、努力を惜しまないことが、支えてくれるサポーターに対する唯一の恩返しになると信じている。
「今は、浦和レッズに注いだ情熱と同じ気持ちでアルビのために全力でプレーします。それが『田中達也』という選手だと、僕は思っています」
2013年3月30日・Jリーグ第4節・東北電力ビッグスワンスタジアム。達也はオレンジのキットを身にまとった大サポーターの思いを背に、全身全霊を傾けて浦和を倒す。
<了>