強く、そして楽しい――ドミニカが示したベースボールの“原点”

杉浦大介

ドミニカ野球は“子供のゲームで遊ぶ大人たち”

先制したドミニカは初回からお祭り騒ぎだった 【Getty Images】

 そして何より、圧倒的な勢いで勝ち進むと同時に、ドミニカの選手たちは観ている私たちにこのスポーツの“原点”を突きつけて来た気もしてならない。
「ベースボールとは楽しむためのもの。緊張を減らし、チーム全体が笑い、そしてリラックスするための手段を見つけなければならないんだ」
 ペーニャ監督がそう指摘していたことを、ドミニカ共和国の選手たちは他のどの国よりも上手にやり遂げた。

 試合前の選手紹介では幸運のバナナを振り廻し、試合中に得点が入ればベンチ前で大騒ぎ。ゲームセットの瞬間にはロドニーの周囲に集まった野手たちが月を指差し、それを合図に“フィエスタ・オン!”(祭りの開始)。
 度を過ぎたセレブレーションはMLBでは許されないだけに、勘に障った人もいたかもしれない。ただ、その一方で、自由奔放な彼らを見てどこか懐かしさを感じたファンも多かったのではないか。

 まるで果たし合いに挑むような日本、ビジネスライクで紳士的なアメリカの野球が悪いわけでまったくないが、ドミニカを始めとする中南米のベースボールのスタイルは根本的に異なる。いわば、“子供のゲームで遊ぶ大人たち”。
 公園での野球で遊んだことがある人なら誰もが経験し、いつのまにか忘れてしまっていた“楽しさ”を、ドミニカンたちは分かり易い形で思い出させてくれた。そして、ベースボールと自国チームに対して無限にも思える愛情を注ぐラテンのファンも、疲れ知らずの応援で大会を盛り上げてくれた。

ヨーロッパや南米のサッカーが、ドミニカ人にとってのベースボール

「(ドミニカの)ファンは心から没頭する。ヨーロッパや南米のサッカーみたいなものが、ドミニカ人にとってのベースボールなんだ。願わくば明日の試合に勝って、選手たちには国民的英雄になって欲しいね」
 決勝戦前日にモイゼス・アルーGMがそう語った言葉は、3月19日の試合後に現実となった。ベネズエラ、プエルトリコ、アメリカといったライバル国をすべて蹴散らしたドミニカの選手たちは、これで晴れて“チャンピオン”と呼ばれる権利を獲得。国際タイトルに縁がなかった母国に初めての栄誉をもたらし、これから故郷に帰っていったいどれほどの歓待を受けるのか?

 ファン、メディアだけでなく、大統領からも祝福されて……全国民を巻き込んだ“ベースボール”という名のセレブレーションは、もうしばらく終わりそうにない。2017年の第4回大会まで続くのではないかと思える一大パーティに、今ごろすべてのドミニカンたちが酔っていることだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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