強く、そして楽しい――ドミニカが示したベースボールの“原点”

杉浦大介

大統領からの電話を片手に優勝会見場へ

驚異的に強く、何より楽しい――ドミニカはベースボールの“原点”を思い出させてくれた 【Getty Images】

 トニー・ペーニャ監督以下、ロビンソン・カノー、ホセ・レイエス、フェルナンド・ロドニーが出席して行なわれたドミニカ共和国のWBC優勝会見は、携帯電話を通じて催された短い会話のおかげで開始が少々遅れることになった。
「(ドミニカの大統領が)僕たちを祝福してくれた。この勝利はドミニカ共和国のためのもの。みんなこの瞬間を楽しみに待っていてくれたんだからね」
 ドミニカ共和国のダニロ・メディナ大統領とかわした電話について、レイエスはいつも通りの笑顔でそう説明した。それにしても……スポーツ国際大会での優勝直後、大統領相手の電話を片手に主力選手たちが会見場に入って来るチームが他にどこにあるだろう?

 ラティーノらしい物事にこだわらない気質と、同時に彼らの国においてベースボールがどれだけ大きな意味を持っているかの証し。それはまるで、ドミニカ共和国が支配的な力を誇示し続けた第3回ワールド・ベースボール・クラシックを象徴するかのようなシーンだった。

普段は気まぐれなタレント集団が一致団結

 現地時間3月19日にサンフランシスコで行なわれた決勝戦では、無敗のドミニカ共和国、番狂わせの連続で勝ち上がって来たプエルトリコというカリブ海のライバル同士が激突。この10日間で3度目となったライバル対決でも強さを見せつけたのは、やはり今大会7連勝と絶好調の陽気なドミニカンたちだった。
 初回に先頭のホセ・レイエスがいきなりの右翼越え二塁打で口火を切ると、エドウィン・エンカーナシオンが2点適時二塁打で先制。5回には3月14日のアメリカ戦でも殊勲者となったエリク・アイバーが再びタイムリー二塁打を放ち、効果的な形で追加点を挙げることに成功した。
 守っても先発のサムエル・デドゥーノが5回を2安打無失点に抑えると、その後はチーム内最大の武器となったブルペンがまたもフル回転。オクタビオ・ドテル、ペドロ・ストロップ、サンティアゴ・カシーヤ、そしてフェルナンド・ロドニーが見事な内容の投球を続け、“3度目の正直”を信じて挑んで来たプエルトリコを完璧に封じ込めてみせた。

「1人ではここまで辿り着けなかった。チームメート、監督、そしてチームのすべての人間といっしょここまでやって来れたことに感謝したい」
 3対0でプエルトリコに勝って初優勝を決めた後、通算打率.469(32打数15安打)で大会MVPに選ばれたカノはそんな決まり文句を繰り返した。
 通常なら陳腐に聴こえてしまうであろうセリフの数々。しかし、今大会を通じて展開したドミニカ選手たちの全員プレーは実際に際立っていただけに、カノの言葉にも実感がこもっているように感じられた。

 レイエスは普段以上にエンジン全開で切り込み隊長を果たし、4番のエンカーナシオンですらも先の塁に頭から滑り込む気迫をみせた。正捕手のカルロス・サンタナは顔面にファウルチップを受けても気丈にマスクを被り続け、万全のコンディションを作って来たロドニー、ストロップ、カシーヤ、ドテル、ケルビン・ヘレラというブルペン5枚看板は何と合計28イニングで失点ゼロという驚異的な仕事を果たしてみせた。
 普段は気まぐれなタレント集団がこうして一致団結し、結果として今大会のドミニカは8戦8勝。攻守両面においてまったく隙がなく、トーナメントの完全支配を続けた。今後、WBCの歴史が連なって行く中で、驚異的な強さを誇示した第3回大会のドミニカは史上に残るチームとして記憶されて行くことだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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