“デスゴール”を回避した大宮の可能性=脱・残留争いへ踏み出した一歩

望月文夫

シャレの域を超えた前田の伝説

高橋(右)ら守備陣が前田をシャットアウトし、“デスゴール”を与えなかった大宮 【写真は共同】

 今季Jリーグ序盤の最大の話題は、すでに伝説と化しているJ1ジュビロ磐田の日本代表FW前田遼一の“デスゴール”だろう。リーグ戦で初得点した相手が、2007年から6年連続でJ2に降格している。地元記者の間で昨年から騒がれ始め、徐々に全国へと広がった。当初は半ば冗談めいた報道でもあったが、昨年初得点を許した強豪のガンバ大阪までもがまさかのJ2降格となり、伝説報道は一気に加熱していった。

 いったい、今年はどのチームから初得点を奪うのか。迎えた磐田の今季開幕戦の相手は、10年にリーグ優勝した名古屋グランパス。今季の日程が発表されると早速その話題で盛り上がり、一部メディアは開幕直前に優勝予想よりも大きく報じたほどだ。結局試合は1対1のドローで終わり、前田は不発。名古屋のドラガン・ストイコビッチ監督は試合後の会見に両手で丸印を作り、「今日一番良かったことは、前田に決められなかったこと」とドローにも満面の笑みを浮かべた。

 長く日本代表の守護神だった名古屋GK楢崎正剛も「次に対戦するチームは1週間で済むが、われわれは日程が発表になってからずっと言われてきたから本当に長かった。決められなくて良かった」と安堵(あんど)の表情を浮かべ、伝説がすでにシャレの域を超えていることを強烈に印象付けた。

無失点で乗り切った大宮

 そして迎えた2節。“デスゴール”の次の標的となったのが大宮アルディージャだ。05年にJ1昇格を果たして以来、リーグ終盤には決まって残留争いを演じているにも関わらず、土俵際で踏ん張りを見せ一度も降格はない。以前に発売した御守りが“落ちない”と受験生から人気を集めたほど、ここまで土壇場で残留力を見せ付けてきた。
 前田が開幕戦無得点だったことを受け、その大宮には次の標的に決まった週明けから取材陣が殺到した。もし前田に今季初得点を許せば、「今年こそは」と降格危機報道になることをチームの誰もが承知していた。

 ところがチームはナーバスになるどころか、「特需ですよ。普段は露出が少ないからチームをアピールするチャンスです」とクラブ関係者はむしろ歓迎ムードを強調する余裕を見せた。選手にも動揺はなかった。11年に前所属のモンテディオ山形(現J2)でデスゴールを経験したFW長谷川悠は「残留力が高いから、(デスゴールは)関係ない」と断言。磐田戦後にはDF菊地光将も「チームの中ではそういう話はまったく出なかった」と、これまで積み重ねてきた残留への自信から冷静な対応に終始した。
 
 試合でも、大宮の守備は前田のゴールだけを強く意識する様子は見られなかった。前田とマッチアップする場面が多かったDF高橋祥平は「うまいし強いしポジション取りも良いので(守備が)難しい場面もあったけど、みんなで協力して守った」とし、「入れられても勝てばいいんだ」と前田の得点だけには縛られず、チームで無失点勝利を達成。そしてアウエーのヤマハスタジアムでは3年連続得点を許していた相手エースを、わずかシュート1本に抑え切った。

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著者プロフィール

1958年生まれ。ランニング、サッカー等の専門誌で編集記者。その後フリーとなり、陸上、サッカー、バレーボールを中心に専門誌等に執筆。

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