“デスゴール”を回避した大宮の可能性=脱・残留争いへ踏み出した一歩

望月文夫

デスゴールなくなりサポーターも安堵

磐田を完封し、チームとして良い状態にある大宮。上位進出も予感させる戦いぶりだった 【写真は共同】

 磐田に狙いはあった。前田と2トップを組むFW金園英学は「前田さんと縦の関係を意識して、前線をかき回したい」と狙い通りに、前田よりも金園に何度か決定機が巡ってきたが、大宮DFの最後の壁が体を張って失点を防いだ。大宮のズデンコ・ベルデニック監督は「決定機を作られたのは、まだ守備が安定していないから」と不満顔だったが、前節は終盤の2失点で同点とされただけに、「無失点に抑えられたことは大きい」とDF陣は自信を回復した。

 それでも、大宮サポーターの不安は大きかったようだ。後半33分、1点ビハインドとなった磐田の森下仁志監督は「状態は良かったと思うが、入ってきたボールを失うシーンが少し続いた」と精彩を欠いた前田を交代。すると、ピッチを去る前田にスタンドから大きな拍手が沸き起こった。磐田サポーターからの「お疲れさま」の拍手ではない。大宮サポーターの「これでデスゴールがなくなった」という安堵(あんど)から出たものだったのだ。

 先発した試合はフル出場するのが常だった前田の途中交代は、なんと08年7月以来約5年ぶりだ。周囲の騒々しさを自ら払拭(ふっしょく)するためにも「早く(初得点を)決めたい」としていたが、またもお預けとなった。デスゴールをくい止めた大宮のクラブ関係者からは「われわれよりもプレッシャーが大きかったのでは。かわいそうな気がする」と同情の声もあがった。

上位争いも期待できる大宮の戦いぶり

 前田のデスゴールを回避した大宮だが、その残留力は本物なのか。ある評論家は「以前はチーム全体が下がって守るチームだった印象だが、今はややDFラインが高くなっている。その分だけボールを奪ってからの攻撃が早くなり、効果的なカウンターでゴール数増も見込める。少なくとも序盤を見る限りでは、残留争いよりも上位争いの可能性を感じさせる戦いぶりだ」と太鼓判を押した。

 実際に戦った選手たちも力を認めている。開幕戦を2−2のドローで終えた清水エスパルスの選手は「より攻撃的になった」と口をそろえ、磐田MF山田大記も「勝負強さのところで相手の方が上回っていた」と大宮のチーム力を認めた。

 しかしまだ2節を終了したばかり。GK北野貴之も「これで残留が決まったわけじゃない」とチームの手綱を締める。それでもベルデニック監督は「今日の試合は今後の可能性を示せた。われわれは残留争いをしてはならないし、上位を目指してプレーしていきたい」と手ごたえは十分につかんだ。残留争いの常連だった大宮が今季上位争いへと転換できるか。心配された“前田のデスゴール”を回避し、目標へと大きな一歩を踏み出したことは確かだ。

<了>

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著者プロフィール

1958年生まれ。ランニング、サッカー等の専門誌で編集記者。その後フリーとなり、陸上、サッカー、バレーボールを中心に専門誌等に執筆。

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