新生なでしこ、ドイツ戦敗北は進化の過程=時間を要する現有戦力と新戦力の融合

江橋よしのり

敗戦も今は“階段”を積み上げる時期

ドイツに敗れ、下を向くなでしこ。次のステップに上がるためには、この敗戦も糧にしなければならない 【写真は共同】

 女子サッカーの国際親善大会「アルガルベカップ」第2戦が8日、行われた。日本女子代表“なでしこジャパン”の相手は、昨年の同大会の決勝戦で対戦したドイツだった。

 昨年のなでしこジャパンは、同大会をロンドン五輪に向けた課題を確認する機会と位置づけ、決勝戦では3−4のスコアでドイツに敗れた。一方、五輪への出場権を逃していたドイツは、2013年の欧州女子選手権(女子ユーロ)に向けて新しいチームを作る段階にあった。

 今年の両チームは、大会に臨む意義、テーマが逆転している。なでしこは成熟しきったロンドン五輪までのチームを一旦解体し、新チームに加わる見込みがある選手のセレクションに着手した。そしてドイツはベスト8敗退と失意の自国開催のワールドカップ(W杯)から2年を経て、直近の目標である今夏の女子ユーロ(現在5連覇中)優勝に向けてギアを入れ替えた。

 そのような背景を考慮すれば、今回の1−2の敗戦を受けて絶望したり、チームを全否定したりするのは、せっかちに思える。トライできたこと、できなかったこと、トライした結果うまくいったこと、いかなかったこと。それらを見落とさず、次のステップに上がるための“階段”を積み上げることが、今は一番大事だ。

 なでしこジャパンの先発メンバーは、前日に佐々木則夫監督が示唆したとおり、“現時点で調子がいい選手”が並んだ。いわば今大会のベストな布陣である。

GK海堀あゆみ
DF有吉佐織、岩清水梓、熊谷紗希、鮫島彩
MF川澄奈穂美、宇津木瑠美、田中明日菜、高瀬愛実
FW大儀見優季、田中美南

デビュー戦で初ゴールを記録した田中美

 ロンドン五輪選出メンバーが8人を占めた顔ぶれの中に大抜擢(だいばってき)されたFWの田中美は、昨年のU−20日本女子代表(ヤングなでしこ)での活躍をきっかけに、なでしこリーグでも日テレ・ベレーザの中心選手まで駆け上がった成長株だ。2月に行われた各年代代表合同キャンプで彼女のプレーを見た佐々木監督は、「ボールを持てる。自分で仕掛けられる」と、高い評価を与えた。ただ、次のU−20代表にも出場する資格があるため、監督はA代表(=なでしこジャパン)と掛け持ちさせないつもりだったようだが、その方針を覆してまで今大会に連れてきた選手だ。

 実は田中美は、2日前のノルウェー戦に途中出場する予定だった。後半開始と同時にウォーミングアップを始め「いつでも出られるように」(田中美)準備していたというが、佐々木監督は「相手にリードされている展開で使うよりも、先発で起用したい」と、この日の投入を“温存”した。試合後の田中美は「今日(ノルウェー戦)、出たかったです。相手DFとMFのラインの間でボールを受けるプレーが足りなかったと思うので、私が出たらそのプレーをしようとイメージしていた」と話した。コメントから、彼女の積極的な性格がにじみ出ていた。

 ドイツ戦で満を持して起用された田中美は、前半18分、味方のFKから大儀見のアシストを経て、デビュー戦ゴールを飾った。ボールがこぼれてくるところを予測して、相手よりに先に動き出したことで生まれた得点だった。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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