新生なでしこ、ドイツ戦敗北は進化の過程=時間を要する現有戦力と新戦力の融合
求められる新戦力とのネットワークの構築
川澄(手前)ら中核の選手たちの良さを引き出すには、新加入選手との連携を高める必要がある 【Getty Images】
ドイツ戦で8人並んだロンドン組は、お互いに判断と行動を同期(シンクロナイゼーション)させることができていた。高い位置でボールを奪って攻め返し、相手GKと1対1の決定機を何度も作ることができた。ひるがえってノルウェー戦では、お互いがプレーを読むことができず、判断も行動も遅れがちだった。各選手にとって、どちらが長所を発揮しやすい環境かと考えれば、答えは明らかだ。
1対1の場面でケタ違いの強さを発揮している大儀見は別格だが、周囲との関係の中で長所を生かすタイプの川澄や田中明、岩清水などの中核が、ノルウェー戦とドイツ戦で見違えた理由もこの“予測”にある。つまり、今大会なでしこジャパンが今ひとつなのは、「澤穂希、宮間あや、大野忍らが不在だから」と言ってしまっては言葉が足りない。「澤たちに替わる選手のネットワーク同期が、間に合っていないから」が本当の理由だ。
したがって、新加入選手たちとのネットワークの構築が進んでいけば、今後はもっと、川澄たちの良さを引き出すことができるようになるはずだ。時間はかかるが、ちょっとずつ進める以外にない。そして、そのセットアップ作業に手をつけるタイミングは、今しかない。
同時に、川澄や岩清水らもう一伸びを期待される世代の選手には、次のW杯と五輪に向けて、なでしこを進化させる新たなソリューションを生み出す工夫が求められる。ただ、これは非常に苦労が伴う気がしてならない。なぜならば先述した通り、チーム全体が“新戦力とのベースの共有”に重心を置いており、“進化”を試すにはメンバー的に物足りないからだ。たとえるならば、進級したのにまた1年生の教科書を使って授業を受けているような感覚だろうか。今大会に臨むなでしこジャパン23人の構成は、国際Aマッチ出場数5試合以下の選手が過半数の14人を占めている。そのいびつな構成のしわ寄せが、川澄たちにきてしまっているようで、懸念を感じる。理想的なバランスは、経験者15名、新戦力8名ぐらいではなかっただろうか。
手応えを感じた自陣でのボール回し
各国はもはや、なでしこ対策として高い位置から激しくプレスする戦術を当たり前のように取り入れている。ロンドン五輪までのなでしこは、自陣で苦しくなった時、大きくボールを蹴ってピンチを逃れようとしていたが、そのクリアボールを相手に拾われ、再びピンチに陥っていた。この悪循環を断ち切る策は自陣からつなぐことだ。
結局、後半に入ると日本陣内に水たまりができていたため、細かいつなぎは別のピンチを招きそうだと判断され、封印された。ボールが走らないピッチ状態のおかげで、なでしこは最も苦手な“蹴るサッカー”に逆戻りし、球際の競り合いに負けた。ボールは雨の中を行ったり来たりを繰り返したが、こぼれ球を拾ったドイツが攻め続けた。1−2とドイツに勝ち越された後も、なでしこの攻撃は単発的なカウンターにとどまり、得点の気配はほとんど生まれなかった。
しかし、前半に見えたビルドアップの新戦術の片鱗(へんりん)は、分厚い雨雲の隙間に指した一筋の光のようだ。
試合後、有吉と岩清水から話を聞けた。2人とも前半の自陣でのボール回しに手応えを感じていた。「今日の出来を最低ラインと定めて、今後ステップアップしていく。後ろで相手のプレスをかわした後、前にボールを進めるタイミングや距離感を、受け手と一緒に合わせていきたい」とは岩清水の言葉だ。すぐにはたどりつけないかもしれないが、道筋はイメージできている。
<了>