どん底に落ちた松坂大輔 復活の戦いは長く、厳しく

杉浦大介

復調への道は時間との戦いに

まだ万全ではないなか、経験と上手さを駆使して何とかまとめあげて行けるか、どうか 【写真は共同】

 もっとも、例え今春の出来がもう1つだとしても、松坂のメジャーでのキャリアがこれで終わりだと決めつけるのはまだ早過ぎるのだろう。
 2011年6月にトミー・ジョン手術を受けた松坂にとって、激しく痛打され続けた昨季はまだ回復途上の期間だった。手術からの回復のスピードには個人差があるが、完調に戻るまでには2年はかかることが多いのが一般的。そう考えると、松坂の完全復活の準備が整うのは今年の夏頃という計算になる。
 2010年春に同じトミー・ジョン手術を受けた田澤純一が、術後2年目の昨季後半に17試合の登板で防御率1.53、三振/四球率は40イニング以上を投げた投手の中ではメジャー最高の9.00を記録したのも記憶に新しい。それと同じように、松坂の場合も、復調への道は時間との戦いになる可能性が高い。

 そこで問題なのは、前記した通りに今季の契約がマイナー契約であること。悠長なことを言っていられる立場ではなく、完全回復の道を探りながら、同時に先発5番手の座を得るために目先の結果も出していかなければならない。
 そんな状況下でポイントとなるのは、肘、身体がまだ万全とは言い切れない登板の際にも、経験と上手さを駆使して何とかまとめあげて行けるかどうか。そして、インディアンスが松坂の潜在能力を信じて我慢してくれるかどうか。
 今季からインディアンスの新監督に就任したテリー・フランコーナは、レッドソックス時代の最初の2年で通算33勝を挙げた頃の松坂も熟知している指揮官である。その監督の前で、今後への可能性だけでも早くから示しておきたいところだろう。

ハリウッド真っ青の物語、実現の余力は残っているか

 オフに松坂以外にもニック・スウィッシャー、マイケル・ボーン、マーク・レイノルズらを加えたインディアンスは、今季のア・リーグでは注目チームの1つ。他にもブレッド・マイヤーズ、スコット・カズミアー、ジェイソン・ジアンビといった曲者を集めたロースターを、老舗の「スポーツ・イラストレイテッド」誌はあるハリウッド映画のチームに例えていた。
「昨季94敗を喫したインディアンスは、25年前にヒットした“メジャーリーグ”の中のインディアンスにそっくりではないか」
 当時一世を風靡したこの映画では、本拠地移転を目論む女性オーナーに反旗を翻し、万年弱小球団のインディアンスが快進撃を続ける。
 そのキャスト同様に、お茶目なスウィッシャー、一発屋のレイノルズ、頭に血が上り易いマイヤーズといったエキセントリックなキャラクターを揃えた今季のインディアンスは、復権を目指す松坂にもやり易いチームなのではないだろうか。

 今振り返っても、2007年のレッドソックス入団直後の松坂の周囲の喧噪は本当に凄いものがあった。注目度は去年のダルビッシュ以上で、国籍を問わず、歴史上で最も大きな期待を背負ってメジャー入りした選手の1人だっただろう。その騒ぎと以降に残した成績のギャップゆえに、“アメリカでのキャリアは失敗”とのイメージも強烈になってしまったのである。
 時は流れ、今ではその周囲にBuzz(興奮した噂話)はまったく漂っていない。現実は厳しく、這い上がるのは並大抵の難しさではないだろう。
 しかし、どん底に落ちた“100億円の男”がケガを克服し、再びスターダムに躍り出るようなことがあれば……それは映画“メジャーリーグ”も真っ青のミラクルストーリーとなる。
 松坂に、その余力が残っているのかどうか。ハリウッド映画を地で行く物語を実現すべく、長く厳しい戦いはまだ始まったばかりである。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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