攻守に未熟さを露呈した新生なでしこ=新戦力を起用も目立った監督のさい配ミス

江橋よしのり

浮き彫りになった新戦力の課題

大滝はシュート意識は高かったがボールの収まり所としては機能する事ができなかった 【Getty Images】

 2トップを組んだ大滝と小川は、自らシュートを打つ意識を膨らませていた。ノルウェーの守備ラインにすきが多かったことも、なおさらシュートを急がせる要因となった。しかし、中盤以下が「ボールをつなぎたい」と考えている時でさえも、一旦ボールを預かるのではなく、裏へ走り抜けるアクションに終始。象徴的だったのは前半43分のプレーだ。ノルウェーがドリブルで攻め込んでくると、なでしこのDFとMFの8人が下がって対応した。相手がそこでパスミスをし、なでしこはボールを拾ったのだが、FWは2人とも前線に張ったままで、パスコースを作ることができなかった。最前線で「直行便」のパスを待っているだけでは、なでしこのFWは務まらない。ボールの「乗り継ぎ」地点になれるかどうかが、後半に登場した大儀見優季との大きな差だ。

 そして、前半8分と16分という早い時間帯に、立て続けに2失点した守備の課題も目立った。失点はいずれも日本の右サイドを突破されてのものだったが、相手が加速した状態で突っ込んでくる局面で、川村優に対応させるのは無理があった。彼女も本来ならば中盤の底で活躍する選手だ。狭いエリアで、一歩でガツンと体をぶつけるシーンならば、なでしこリーグでも良い働きを見せている。体のぶつかり合いをいとわない、人に強いタイプの選手だが、彼女自身が加速を得意とするタイプとは言いがたいため、スピードでの勝負にさらされるサイドでの起用はリスクが大きい。佐々木監督は「(川村優を)数日前からサイドバックにコンバートした。いきなり(実戦で起用すること)は厳しかった。僕自身のさい配で悔しい思いをさせてしまった」と選手をかばった。

なでしこは1日にしてならず

 こうして試合内容を振り返ってみると、守備でも攻撃でも、なでしこは個々の戦術眼の未熟さが際立ってしまった。しかし、そのような戦術眼とは、国際競技力と言い換えることもでき、国内リーグで培うことがなかなか難しい。やはり「つぼみ」の段階からでも、国際試合を経験する以外に上達の道はない。途中出場の田中陽子を含め、この試合でAマッチデビューを果たした5選手にとって、この日「できなかったこと」は悲観すべきことではない。これからの自分が目指すべき水準を、自分の目で確かめることができたのだから、マイナスばかりではないのだ。

 ワールドカップやロンドン五輪の時のように、手に汗を握るなでしこの戦いを期待して応援していたファンにとって、この日のノルウェー戦はかなり不満だったに違いない。だが、世界一になった選手たちも、自分らしさを出せなかったり、チームとしてかみ合わなかったりする経験を過去に味わっているのだ。

 なでしこは1日にしてならず。

 この大会も、新生なでしこジャパンの成長の過程を一から見届けるつもりで向き合えれば、きっと楽しめるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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