攻守に未熟さを露呈した新生なでしこ=新戦力を起用も目立った監督のさい配ミス

江橋よしのり

姿を消した得意のパスワーク

代表初出場の選手を多く起用した新生なでしこジャパンは得意のパスワークを見せることなく敗れた 【写真は共同】

 特筆すべき収穫は見当たらなかった。だからといって、未来を悲観しすぎてはいけない。“なでしこジャパン”ことサッカーの日本女子代表は6日、ポルトガルで開催される国際親善大会・アルガルベカップ2013の初戦でノルウェーと戦い、0−2と敗れた。失点こそ2点のみだったが内容的には完敗だった。

 この日の先発メンバーを、過去の国際Aマッチ出場数とともに並べてみる。

GK久野吹雪(初出場)
DF岩清水梓(85試合)
DF長船加奈(4試合)
DF川村優理(2試合)
DF加戸由佳(初出場)
MF川澄奈穂美(39試合)
MF田中明日菜(19試合)
MF山崎円美(初出場)
MF川村真理(初出場)
FW大滝麻未(1試合)
FW小川志保(初出場)

 初出場の選手5人を含め、5試合の出場に満たない選手が8人と大多数を占めた。花束ではなく「つぼみ」の束だ。なでしこらしく味方同士で長所を活かし合い、個々のウイークポイントを補い合う成熟した集団プレーが生まれなかったのは仕方ないだろう。しかし、それにしてもチームは予想以上にバラバラだった。

 実は、ノルウェー女子代表のペレルド監督は試合前日、「日本戦ではまったくボールに触らせてもらえないんじゃないか」と自虐的な展望を語り、試合後も「日本にボールを支配されたら、ノルウェーの選手たちはパニックに陥ったと思う」と胸の内を明かしていた。ベストメンバーでないとはいえ、なでしこのパスワークがここまで乱れるとは、敵将も想像していなかったのかもしれない。国際経験の浅いなでしこのつぼみたちは「自分をアピールしたい」という意欲に満ちていた反面、その気持ちがことごとく空回りしていた。結果、サッカーにならなかった。

なでしこに不可欠な状況判断の力

 中盤でタクトを振るはずだった田中明と山崎はピッチ中央で孤立し、追いかけてくる相手からボールを逃がし続けた。守備網に穴を空けるパス戦術には、味方同士の適切な距離感が不可欠だ。しかしこの日は「サポートの位置が遠かった」(田中明)、「ワンタッチでボールを動かそうと思った時に、預けられる味方がいなかった」(山崎)と、パスを出せずに苦しんだ。かろうじて見つけた遠くの味方に強引なパスを出しては、ミスになる悪循環に陥った。

 本来FWの選手ながらボランチのポジションで代表初出場を飾った山崎は、ボールを受ける前に、次のプレーをイメージすることができていたようだ。ところが相手のプレスによって、やろうとしていたプレーがふさがれると、瞬時に「別の選択肢」に切り替えることができずにボールを持ちすぎてしまう場面が目立った。持ちすぎて、相手に体を寄せられ、苦し紛れにバックパスをすれば、後ろで受ける選手も苦しい状態でボールを持たされてしまう。「状況を見て早めに判断する」ことは、なでしこの素早い攻撃に不可欠なのだが、さらに「ダメなら判断を変える」というところまで、なでしこでは求められる。ボランチでのプレーが不慣れな山崎には荷が重かった。この起用は佐々木則夫監督のミスと言っていい。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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