鹿島・鈴木氏が語る「Jリーグクラブのビジネスモデル」

スポーツナビ
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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

365日にぎわいのあるスタジアムへ

質疑応答ではラグビー界に対する貴重な提言を行った 【スポーツナビ】

 次にスタジアムについてです。鹿島は06年に(カシマスタジアムの)指定管理者になりました。一度更新して11年から10年契約で進めています。われわれはスタジアムを非常に重要なものだと位置づけています。お客さんを集めるというだけでなくて、アントラーズを表現する上で大事だと思っています。

 大きく二つのことに取り組んでいます。「フットボール=サッカー事業」と「ノンフットボール=サッカー以外の事業」です。スタジアムを抱えていても、われわれがお客さんを集める興行は年間で20日程度しかありません。年間365日のうち、残りの340日をどうするのかが大事だと思っています。ここで地域の皆さんとのコミュニティーの場を作る、あるいは収益事業をやる。これが非常に大事だと思っています。

 サッカー事業としては、飲食に関して評価が高く、グルメスタジアムと呼ばれる状況になりました。暖かい料理が提供できており、評判もいいですね。あとは付加価値の高いシートを作っていくことです。「入場料収入の80パーセントは、20パーセントのお客さんから得ている」という法則があります。鹿島はまだまだそこまで達していませんが、これが4000席のエグゼクティブシートができて、そのお客さまからお金をいただくことが80パーセントを占めるようになれば、プロの興行として非常にうまくいくと言われています。一方で、スポーツジムやスキンケア事業をやったり、夏場にはビアガーデンも行ったりと、実にさまざまなことを行っています。

 われわれが目指す形としてはコベントリー(英国)にあるリコー・アリーナです。カジノとコンペティションホールがあります。ここは聞くところによると、全体の収益の20パーセントがサッカー事業で、その他の事業が80パーセントを占めています。ホテルもありまして、視察に行った際には夜遅くに到着してそのまま寝てしまったんですが、朝起きて窓を開けると壮大なピッチが見えました。普段は客室として使っていて、試合のときにはベッドを収納してVIPラウンジとして使うのでしょう。非常に収益を考えたスタジアム構造になっています。

 残念ながら、日本のスタジアムはほとんどが公共施設ですから、収益性が考えられていません。今でこそ、民間事業者が参入できるようになっていますが、収益性を高めるスタジアムに構造を変えるのはとても大変です。「365日にぎわいのあるスタジアム」を目指していますが、まだそこまでいっていません。夢なかばというところです。

リーグの活性化が代表の強化につながる

 以下は質疑応答の一部。

――Jリーグ発足当初は常にスタジアムが満員でしたが、02年W杯後は難しい現状にあると思います。何か打つ手はあるのでしょうか?

 もがいています。カシマスタジアムに関しては、W杯を迎えるために増築を行いました。増築のために、まったくスタジアムを使えない時間が1年間ありまして、ホームを離れて国立競技場で試合をしたり、金沢や富山など北陸シリーズをしたりしました。そのおかげで地方のファンは増えたんですが、鹿島に戻ってみると、ほとんどの人がサッカーを見る習慣をなくしてしまっていました。毎週末ユニフォームを来てスタジアムに行って、もつ煮を食べて応援をする。勝って喜び、負けてもお酒を飲んで楽しむ。という生活習慣が、それまではできていたんです。ただ、ホームを長く離れることで遠ざかってしまいました。そういった生活習慣をどうやって取り戻すかをわれわれは考えないといけません。

 また、昨年から方針を変えました。意味のない招待券は止めよう、数の論理ではなく収益の論理にしようと決めました。客単価をどう上げるか、顧客満足度をどう高めるかを考えようとしています。お客さんの数はもちろん大事です。ただ、きちんとしたもてなしをして、チケットの価値の分だけ楽しんでいただくサービスを提供したいと考えています。

――アジア戦略についてどう考えていますか?

 とても大切なものだと考えています。われわれは常にヨーロッパのサッカーと比較しています。どのような収益構造になっているのか、それがどういう構成になっているのか。現状として、収入の多くは放送権料だと思われます。日本も放送権料を上げられればいいのですが、今の有料放送の加入世帯数が国内の世帯数の何パーセントあるか、ヨーロッパにおける世帯数と加入者数の比率などを考えると、まだ100倍ぐらい伸ばせる可能性があります。地上波を見てきた日本のテレビ文化は徐々に変わってきています。あとはJリーグというコンテンツが、サッカーコンテンツの中でNO1だと言える地位になることです。アジアの中でJリーグを目指す、Jリーグを見に行きたいという強いコンテンツになることを目指しています。

 実際にイングランド・プレミアリーグの放送権料の半分近くはアジアの人たちが払っています。そのうち10、20パーセントの方がJリーグを見てくれるようになればと思っています。

 アジアの子どもたちがJリーガーを目指すことは、われわれだけでなく、われわれのスポンサーにとっても大きなメリットになると考えています。今年からさらに交流が盛んになっています。もしシーズンが変わった場合、1、2月はウィンターブレイクになるので、アジアで開かれる小さな大会に積極的に出ていくのだろうと思っています。可能性としてなくはないと考えています。

――19年W杯の成功のためにラグビー界がなすべきことはなんでしょうか?

 わたしはサントリーサンゴリアスのファンです。サントリーさんとお付き合いがあるだけでなく、過去の選手や監督さんとも話をさせていただきました。過去にはサントリーとトヨタの試合をカシマスタジアムでしたことがあるんですよ(※04年トップリーグ)。サッカー界が発展してきたのは、Jリーグが発足してクラブが力をつけたからだと思っています。海外でプレーする選手が増えてきたことは、われわれクラブ関係者にとって歓迎すべきことではないのかもしれませんが、止めることはできません。結果として日本代表は強くなりました。代表チームが強いということは人気が出ますし、目指す子どもたちも増えてくるわけですね。だから育成のスキームをきちんと作らないといけないということになります。

 ラグビーだけでなく、トップチームを強化する場合、トップだけに重点を置いても強化にはつながらないことを認識すべきだと思います。ラグビーにはトップリーグとその下のリーグもあるわけですから、そこが活性化する仕組み、見てもらえる仕組みを作るべきだと思います。そこに注力するべきだと思います。

 トップリーグの選手にもプロは多くいますが、プロ選手に対するペイメントを払う収入源はどこにあるんでしょうか。これが企業の持ち出しだけでは、うまくはいかないと思います。国内のチームが活性化されることによって代表が強くなると思っています。

鈴木秀樹氏に聞く「あなたにとってラグビーとは」

「サントリーサンゴリアスです。なぜならば、世界で勝てる最先端のスタイルをやっているからです。日本代表が最もやらなければならないスタイルなんですよ。スタイルを覆す選手や監督の入れ替えをしてしまうと、ひとつのスタイルがなくってしまいます。だから、鹿島は20年間、誰が監督をやっても変わらないスタイルです。そうやって見ていくと、独自のスタイルを構築しているサントリーがどんどん好きになっていくんです」

<了>


協力:(公財)日本ラグビーフットボール協会

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