新生・阪神のカオスと、若手投手陣の不安

山田隆道

それにしても阪神の若手投手は、なんでこう……

 しかし、これだけ野手陣の調子が良く、そこに脚光が集まっていると、かたや投手陣のことが気になってしまう。考えてみれば、今季の阪神投手陣は藤川という絶対的な守護神が抜けただけで、その大きな穴を埋めるための補強は特にしていない。もちろん、ルーキーの藤浪には期待しているが、それを補強とするのは乱暴すぎるだろう。
 そうなると、既存の若手投手陣の底上げに期待してしまうが、残念ながらキャンプではそれがあまり見られなかった。先発転向を目指す3年目の榎田大樹は不振に苦しみ、実戦でもたびたび打ち込まれた。同じく先発ローテ入りを狙う4年目の秋山拓巳と3年目の岩本輝も大きく成長しているとは言い難く、たまに実戦で無難に抑えることがあっても、球速が上がってこないなどの不安がある。2年目の歳内宏明に至っては、体調不良という解せない理由で昨年の秋季キャンプに参加せず、春季キャンプも二軍暮らしである。

 それにしても阪神の若手投手は、なんでこう、数年間ファームで育成すると、みんな最速140キロそこそこの、本格派とも技巧派とも括れない“まとまった投手”になってしまうのだろう。先述した秋山は特にそう思う。高校時代は最速150キロのパワーピッチャーという印象だったが、今はすっかり阪神モデルのまとまった投手になってしまった。
 こういう不思議な伝統があるから、藤浪のことは開幕から即一軍で起用して欲しいと思ってしまう。高卒ルーキーなのだから、焦らずじっくりファームで鍛えたほうが良いという正論はもちろん理解できるが、それはあくまで他球団の場合であって、阪神に限ってはファームでの育成ほど怖いものはない。育成術のどうこうの前に、縁起が悪すぎるのだ。

藤浪以外の若手投手による一面ジャックを切に願う

 今季の阪神は福留、西岡、藤浪といった一見派手な話題の陰で、投手陣には心配の種が尽きない。若手の底上げがないのなら、能見、岩田稔、メッセンジャー、スタンリッジ、久保康友といった既存の主力投手たちが、年齢を1歳重ねただけだ。しかも、今年で岩田も30歳になるため、主力投手のほとんどが30代という高齢布陣である。
 好調な打線に関する報道が目立つということは、すなわち投手陣に関する明るい話題が少ないということでもある。これから本格化するオープン戦で、藤浪以外の若手投手が関西のスポーツ新聞の一面をジャックすることを切に願っている。

2/2ページ

著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント