新生・阪神のカオスと、若手投手陣の不安

山田隆道

確かにチームの雰囲気はがらりと変わった

今年の阪神は超大物ルーキー・藤浪ら一見派手な話題を集めるその陰で…… 【写真は共同】

 今季の阪神タイガースは、例年以上に多くの話題を振りまいている。話題の中心は福留孝介、西岡剛、藤浪晋太郎といった注目の新戦力たちだ。2月のキャンプイン以来、関西のメディアは連日のように彼らの様子を報じ、2013年の阪神に大きな期待を寄せている。
 そんな盛況ぶりを体感しようと、僕も沖縄県宜野座村の阪神キャンプに行ってきた。福留と西岡のメジャー帰りコンビが入ったことで阪神はどう変わったのか、超大物ルーキー・藤浪の育成は順調に進んでいるのか。その他、気になることは山ほどある。

 結論から書くと、確かにチームの雰囲気はがらりと変わった。先述した新戦力が加わったことはもちろんだが、それ以上に大きいのは金本知憲、城島健司、藤川球児の3人が抜けたことだ。これまで抜群の存在感を放っていた攻守の柱が一気にいなくなり、そこに別のピースがはまったことで、まったく違うチームになったような印象を受けたのだ。
 僕が沖縄に行ったのは2月16日以降であり、ちょうど能見篤史と鳥谷敬がWBCの合宿でおらず、新井貴浩も肩の怪我による別メニュー調整だったため、余計にそう感じたのかもしれない。昨年までの投打の中心選手が全体練習にいないぶん、ファンとマスコミの視線は必然的に新戦力に集中する。しかし、当の福留と西岡にしてみれば、移籍1年目の転校生みたいなものだから、いくらなんでもいきなりチームリーダーの役割まで担うのは難しく、今年は自分のことだけで精一杯だろう。ルーキーの藤浪はなおさらだ。

時として混沌は爆発力を生む、2003年のように

 かくして、阪神のキャンプは非常に混沌としていた。金本と藤川という投打の大黒柱を失い、新しいチームを作っていかなければならない中で、球団は若返り策を断行せず、大型補強に走った。それはつまり、新しいチームをゆっくり育てるのではなく、急速に作るということだ。何事も急速な発展の過程にはカオスが付き物だ。福留と西岡というビッグネームは確かに存在感があるが、チームとしての秩序はまだ整っていないのだろう。
 しかし、この混沌はかつて金本知憲や伊良部秀輝らが入団してきた2003年にも感じたことで、その年の阪神がすさまじい勢いでリーグ優勝を果たしたように、時として未成熟であるがゆえの爆発力を生んだりする。だから、一概に悪いとは言い切れない。

 今年の阪神キャンプでも、野手陣には好影響が出ていた。福留はさすがの打撃技術で快打を連発し、西岡も元気に動き回っていた。新井良太や大和、上本博紀、伊藤隼太も調子がいい。また、新外国人・コンラッドも実戦で好結果を残し、昨年の不振からの復活を目指すマートンも精力的に打撃練習をこなしていた。実際、ここまでの練習試合やオープン戦でも、阪神打線は好調をキープしており、大量得点を奪うこともしばしばだ。
 だから、関西のスポーツ新聞は大賑わいだ。2月のキャンプイン以降、福留や西岡の名前が何度も一面を飾り、また彼らが評判に違わぬ好結果を残すものだから、ますます話題に事欠かなくなる。それに加えて、大物ルーキーの藤浪ネタもあり、スポーツ新聞の紙面構成的には金本や藤川の穴をまったく感じさせないほど華やかだ。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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