“狂犬”ランペイジとの遺恨=“格闘技の聖地”とヴァンダレイ・シウバ

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死闘第2戦はさいたまでのPRIDE王座戦

3月3日の「UFC JAPAN」で久しぶりに“聖地”さいたまSAに帰って来るシウバ 【t.SAKUMA】

 この初対決から約1年後の04年10月31日、さいたまスーパーアリーナで行なわれた「PRIDE.28」で両者は再び激突する。今回はヴァンダレイの持つPRIDEミドル級王座にランペイジが挑む形となった。
 この時までに王者ヴァンダレイは美濃輪育久(現・ミノワマン)と“パンクラスのエース”近藤有己をともに1Rで葬ってPRIDEでの18勝目を挙げ、一方ランペイジも美濃輪とヒカルド・アローナを(T)KOして強さを見せつけていた。特にアローナ戦では、三角締めを仕掛けたアローナを思い切り高く持ち上げ、マットに叩きつけて失神させると言う離れワザをやってのけ、世界中の格闘技ファンを戦慄させたのだった。
 
「前の試合じゃ、(同日行われた準決勝の)リデル戦で俺はケガをしてた。ワンマッチなら絶対負けねえ」とランペイジは語り、前回のヴァンダレイへの負けは実力差によるものではないとアピール。
 これに対しヴァンダレイは「顔がボコボコになるまでブン殴って、俺が王者だと思い知らせる!」と宣言。
 かくして2度目の死闘の火ぶたは切られたのだった。

 超満員のさいたまスーパーアリーナ。ランペイジは首に巻いたいつもの鎖に十字架を吊るし、オリジナル・テーマ曲『Rampage』に乗って登場し、スモークの中、“狂犬”の遠吠えを上げた。
 そしてトップロープを飛び越えてリングイン。

 王者ヴァンダレイが『Sandstorm』にのって入場するが、ランペイジはその間、携帯電話で誰かと会話を続ける。さすがに米国歌斉唱の際だけはセコンドに言われて携帯をしまうものの、ヴァンダレイ側のブラジル国歌が始まると再び携帯を取り出して通話するという不遜な態度を見せる(※1)。タイトルマッチ認定宣言の間も、片脚をロープにひっかけたままというディスリスペクトぶりを崩さない。

 コールが終わり、両者がリング中央に呼ばれると、ランペイジは歯を見せてニヤニヤ笑い続けるが、王者は相手を睨みつけるものの、比較的冷静な表情だ。

ヴァンダレイがいきなり大ピンチに!

 ゴング直後、ワンツーを振るうヴァンダレイに、ランペイジはクリンチし、ロープに押しつける。ヴァンダレイがボディーにヒザを入れるが、浅い。

 両者離れると、ヴァンダレイはパンチを3連打。しかしランペイジは両腕でしっかりブロックして左フック。ヴァンダレイはダッキングでかわし、右フックを振るう。

 ランペイジの左にヴァンダレイはワンツーを合わせ、ローキック。ランペイジはスネで受け、両者はパンチの打ち合いに。ランペイジのパンチにヴァンダレイはロープに後退するが、ワンツーからハイキックを見せる。

 ランペイジはいったん離れ、パンチを出すヴァンダレイに組みつき、ボディーに左ヒザを入れる。しかし首相撲の体勢に捕えたヴァンダレイもヒザを返す。
 ランペイジが身を振りほどくと、左右のパンチを入れたシウバは再び首相撲の体勢に。そして右ヒザを外から大きく回して側頭部に叩き込む。ランペイジはパワーでコーナーに相手を押し込み、スラムを狙うが、ならず。

 両者離れるとヴァンダレイは左右のパンチを7連打し、首相撲からのヒザを2連打! しかしランペイジは前進することでヒットポイントをずらす。

 コーナーでもつれた両者、ヴァンダレイは右手でクリンチしたまま左フックを3連打で叩き込む! さらにヒザも狙うが、ランペイジは肩でブロック。
 逆に押し返して体を入れ替えたランペイジは、ヴァンダレイの体勢を崩して投げ、グラウンドで上を取った!

 大ピンチかと思われたヴァンダレイだが、冷静に脚を使って対処し、ランペイジのパウンドを防ぎ、三角の体勢に入る。
 しかしランペイジは立ち上がって引っこ抜く。前回アローナが三角から持ち上げられてスラムで失神させられているので、ヴァンダレイがわざと脚を放したのかもしれない。

 ランペイジは一瞬、足関を狙うが、これは決まらず、そこから再び覆いかぶさる。しかしヴァンダレイは下からランペイジの右腕にアームロックを仕掛けていく。

 スタンドに戻ると、ランペイジのジャブに対し、ヴァンダレイはジャブ2連打から右ストレート。そしてローキックを放つ。
 ここでランペイジが右の連打をボディーとアゴにヒットさせ、王者はロープ際に倒れ込む! タックルに行ってしのごうとする王者を力づくで潰し、上になったランペイジはパウンドを落とす!

 両脚でがっちりランペイジの胴を挟んだフルガードの体勢で、ヴァンダレイはランペイジの頭を引きつけ、三角のチャンスをうかがうが、その表情には力がない。パンチが効いたのか?

 ランペイジはパスガードしてサイドポジションへ行き、顔面にヒザ! そしてさらにパウンドを入れるが、ヴァンダレイは脚を効かせて何とかフルガードに戻す。

 上からボディーに左右のパンチを叩き込むランペイジ。ヴァンダレイは脚を上げて腕十字または三角を狙うが、ランペイジはこれを外し、再びサイドを奪う。そして大きく脚を振り、王者の側頭部にヒザを叩き込む!
 なんとかハーフガードに戻した王者だが、ランペイジに強烈なパウンドを入れられたところで、1R終了のゴングが鳴った。この体勢が続いていたら危ないところだった。

総合格闘技史上に刻まれたベストバウト

 2R、いきなりパンチを打ち合う両者。ランペイジのワンツーに対し、ヴァンダレイは左右のフック。さらにもう一度、ガードの上からワンツー、そしてフックを叩き込むと、ランペイジは少しグラつく。
 王者はさらに左ミドルを入れるが、ランペイジもワンツーで応じ、王者は左右のフックからヒザを放つも、ヒザは腕でブロックされる。

 ランペイジは前進して組みつき、豪快な投げでヴァンダレイをマットに叩きつける。
 ランペイジは上を奪うが、王者が脚を効かせて防御すると、ランペイジは足関狙いに。
 これをスカしたヴァンダレイは立ち上がり、仰向けのランペイジに、得意の踏みつけとサッカーボール・キックを放つ。ランペイジは紙一重でかわすも、さらなる踏みつけで、踵が胸元を直撃!

 しかしランペイジはマットを転がるようにしてヴァンダレイの左脚をつかみ、立ち上がると、顔面にヒザを入れようとする。しかしヴァンダレイはスウェーでかわす。

 離れた両者。激しい攻防で、共にかなりの消耗が見られるが、特にランペイジは腕を落とし、肩で息をしている。

 ヴァンダレイが右ロー。前に出るランペイジに、ヴァンダレイのジャブからの右フックが炸裂! さらに右フックで追撃し、下がったランペイジを首相撲に捕え、左右のヒザを連打!
 ランペイジは前に出ることで何とか外そうとするが、ヴァンダレイはバックステップしながらも首を放さず、さらにヒザを連打!
 5発目が顎を直撃した直後、ランペイジは前のめりに倒れてロープにだらりと引っかかった形で失神、レフェリーが試合を止めた。2R3分26秒のKO劇だった。
 ヴァンダレイはコーナーポストに駆け上がり、アリーナを埋めた総立ちの観客に向かって
「アリガトー!」と日本語で絶叫。
 会心の笑みを浮かべ、観客から嵐のような拍手と歓声を受けた。かつて「ブラジルの悪魔」と呼ばれた男は、この国で激闘を続け、勝ち続けることで日本のファンの心をつかみ、ヒーローになったのだ。

 この試合は米有力格闘技サイトによって04年の年間ベスト・ファイトに選ばれ、ヴァンダレイは年間ベスト・ファイターにも選ばれた。この試合はまさにPRIDE史上に、いや、格闘技史上に残る名勝負の1つと言えるだろう。
 しかし、“絶対王者”の称号を手にしたヴァンダレイには、さらに厳しい試練が待ち受けていた。

<続く>

(※1 この時の携帯の相手は日本人女性で、ランペイジはこの試合前の通話で彼女にプロポーズしていたことが判明。2人は結婚するが、その後、ランペイジが隠し子を作っていたことがバレて離婚した)

(文:稲垣 收――WOWOW UFC解説者)

■詳しくはUFC 番組オフィシャルサイト(wowow.co.jp/ufc)へアクセス!
http://www.wowow.co.jp/sports/ufc/

◆◆◆ WOWOW番組情報 ◆◆◆

★生中継!UFC−究極格闘技− UFC157 誕生!女子バンタム級&激闘!ダンヘンvsリョート
拡大を続けるUFCで、遂に女子部門が誕生!初代王者ロンダ・ラウジーが最強の挑戦者を迎え撃つ!その他、ダンヘン対リョートの一戦も激闘必至な必見のカードだ!
2月24日(日)午後0:00〜[WOWOWプライム]※生中継
ゲスト:関根勤

<主な対戦カード>
女子バンタム級タイトルマッチ:ロンダ・ラウジー vs リズ・カムーシェ
ライトヘビー級:ダン・ヘンダーソン vs リョート・マチダ


★いよいよ決戦!UFC JAPAN 2013
メインカードで登場するヴァンダレイ・シウバやマーク・ハント、五味隆典戦など、見所を徹底紹介!さらに既に行われているアンダーカードもお届けする必見の無料放送!
3月3日(日)午前11:00〜[WOWOWプライム]※生中継 ※無料放送


★生中継!UFC JAPAN 2013
昨年、2万人を動員したUFCが今年も日本上陸!スーパースターのヴァンダレイ・シウバやマーク・ハントが参戦。さらに五味、岡見といった日本勢の活躍にも期待だ!
3月3日(日)午後0:00〜[WOWOWプライム]※生中継
<主な対戦カード>
ライトヘビー級:ヴァンダレイ・シウバ vs ブライアン・スタン
ヘビー級:マーク・ハント vs ステファン・ストルーブ
ライト級:五味隆典 vs ディエゴ・サンチェス
ミドル級:岡見勇信 vs ヘクター・ロンバード

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