外国人監督誕生でバレー界は変われるか=成功のカギは理想を形にする“実行力”

米虫紀子

ドラスティックな変化を求めての決断

就任会見で笑顔を見せるサトウ監督。男子バレー界をけん引し、明るい未来を築けるか 【坂本清】

 バレーボール全日本男子代表の新監督に、米国人のゲーリー・サトウ氏が選任された。日本バレーの代表監督に外国人が就任するのは、男女を通じて初めてのことだ。

 サトウ氏が選任された2月18日の記者会見で、日本バレーボール協会の中野泰三郎会長は、外国人監督採用に踏み切った理由についてこう語った。

「1972年のミュンヘン五輪を最後に男子バレーはまったくメダルに届いていない。それは協会全体の責任として、本当に申し訳ないと思っている。今までの延長線上で物事をやっていては、この流れを変えるのは難しい。メダルを獲った栄光を一度は忘れて、ゼロから出発しなければいけない。日本に対する偏見がない方のほうが、思い切った施策を打ち出せるだろうということで、この決断に至った」

 代表監督の公募に応じた約20人の中から、最終的に長年米国代表コーチを務めたサトウ氏と、日本人候補者1名に絞られ、2月6日に行われたプレゼンテーションの際のサトウ氏のデータの緻密(ちみつ)さや、論理的に優れていた点が決め手となったという。

 サトウ氏は現在のプレーや戦術が高度化したバレーの中では、監督1人が全部をやるのは適切ではないと主張。サーブやディフェンスなどそれぞれの分野に担当を置いたり、トレーナーもフィジカル、メンタルの両方が必要で、そういうものを総合的に組み合わせなければ世界では勝てないという考えを示した。短期的に海外のコーチやトレーナーを呼ぶ考えもあるという。「今までの監督とは違う発想があり、新しいバレーが期待できると感じた。彼の持っているネットワークを使って、世界レベルでの練習や技術的なサポートを受けられるのではないか」と中野会長。

 そして、「サトウ氏が日系4世だから選んだわけではない。日本の過去の栄光だとか、日本の事柄がわかりすぎるのは良くないし、来てもらうからには、日本人にはできないドラスティックなことをやってもらわないと意味がない」と中野会長が語れば、森田淳悟強化本部長も「嵐を起こせる人がいいと思った」と変化を求めていることを強調した。
 過去5回の五輪で、日本男子バレーが出場権を獲得できたのは2008年の北京五輪のみ。現在は世界ランキング19位と低迷している。世界トップとの差が年々開く中、ようやく、代表レベルで世界と戦ってきた外国人監督の誕生となった。

海外チームとの対戦で磨くスマートなバレー

がっちりと握手する左から中野会長、サトウ監督、森田強化本部長【坂本清】 【スポーツナビ】

「16年リオデジャネイロ五輪で、メダルを獲れるチームを作りたい」と2月19日に行われた記者会見で、サトウ監督は目標を語った。

 目指すバレーを一言で表現すると? と聞かれると「スマートなバレー」と答えた。つまり「状況判断に長けたバレー。ある目的を達するための手段はたくさんある。ただ正面から全力で向かっていくだけでなく、他の手段を見つける、というところから始めたい。難しい状況でどれだけ正しい判断ができるかが重要」と解説した。

 海外勢の高いブロックを相手にした打ち方に課題のある全日本に必要なテーマだと言える。また、日本の弱点としてはブロックを挙げ「まずブロックのシステム、戦略、知識、すべてを作り変えていきたい」と語った。

 1年目の強化ビジョンとして、海外の強豪との対戦を希望しているとも明かした。「海外でトレーニングしたり、あるいは日本に海外のチームを招いて、海外から学ぶ機会を多く設けたい。希望としてはブラジルに行きたいし、身長の高いポーランドのようなチームとも対戦したい」

 現状では、代表に入るであろう選手がみな日本国内のリーグや大学でプレーしている以上、海外の選手の高さやボールのスピードに慣れるには、全日本の活動期間に海外のチームと多く試合をこなすしかないが、今までの日本にはそれが欠けていた。

 海外遠征を行うにしろ海外のチームを招くにしろ、費用はかかるが、中野会長は「ほかの予算を削ってでもやってもらうことになると思う。中途半端なことはやらない方がいい。監督が遠慮なく、思い切って自分の考えを実行できるような環境をわれわれが提供しなければいけないし、Vリーグや大学、高校などバレー界全体の協力がなければ絶対にうまくいかない」と決意を語った。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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