外国人監督誕生でバレー界は変われるか=成功のカギは理想を形にする“実行力”

米虫紀子

決定の遅れによる選手選考の不安も

ロンドン五輪世界最終予選敗退から8カ月。新監督決定はあまりにも遅かった 【坂本清】

 ただ、不安材料もある。代表監督決定が遅れたため、選手選考の時間が限られてしまうということだ。

 昨年のロンドン五輪世界最終予選が終わってから、既に8カ月以上経っている。6月10日にロンドン五輪への道が断たれた後、すぐにでもリオ五輪に向けた強化をスタートできたのに、男子の強化はほとんどストップしていたと言っていい。監督の公募が10月になってからというのは遅い。そもそも、五輪出場を逃し、アジアの中でも世界ランキングが4番手にあるという状況に立たされているのに、あくまでも監督公募という待ちの姿勢だったことには疑問が残る。敗退の理由をすぐに精査し、日本に足りないものを強化して世界と戦えるチームへと引き上げる力を持った指導者を、世界中から自ら探して交渉するという方法もあったのではないか。

 結局、当初は11月半ばと言われていた新監督発表は2月18日にずれこみ、そうしているうちに12−13シーズンのV・プレミアリーグは今週末からもう4レグに入る。森田強化本部長によると、ワールドリーグの選手登録の締め切りは5月初旬が予想されるというが、サトウ監督は今月21日にいったん帰国し、次の来日予定は3月下旬。現在決まっているV・プレミアリーグの視察予定はファイナルラウンドだけだ。そこには当然上位4チームしかいない。それ以外の試合は映像でチェックするとのことだが、それで十分な選手選考ができるのかどうか、不安は残る。

 もう一つの不安材料は、サトウ監督はコーチとしての経験は豊富だが、あまり監督経験がないということだ。米国代表チームのコーチとしては、88年のソウル五輪金メダル、92年バルセロナ五輪銅メダル獲得に貢献し、昨年のロンドン五輪でもコーチ(※登録は理学療法士)を務めたが、監督としての主な経歴は、米国ユースチームや、85年ワールドカップでの代理監督にとどまり、監督としての手腕は未知数の部分がある。

 そのことについて森田強化本部長は「アシスタントコーチやアナリストとしてベンチに入って経験してきているので、心配していない」と言う。中野会長は「米国ではおそらくいろいろな事情があって監督にはなっていないが、話を聞いているうちに、力は十分にある人だと確信したので、思い切って任せることにした」と明かす。もちろん、監督経験がなくても、これまで培ったノウハウをもとに成果を挙げる可能性は十分にある。

 何より、北京五輪で1勝も挙げられなかったにも関わらず、コストとコミュニケーションの問題を理由に、世界的に実績のある指導者からの応募を断り、何も変えようとしなかった4年前に比べれば、日本協会の「変わらなければ」という姿勢は感じ取れる。

「外国人監督になったから強くなる」というわけではない。肝心なのは、記者会見で日本協会の中野会長、森田強化本部長やサトウ監督の口から発せられた、変革への数々の前向きな決意を、実現できるかどうかだ。理想は聞くことができた。あとは、実行力にかかっている。

<了>

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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