失望の出来だった香川が示すべき存在価値=「妥当な交代」メディアからは厳しい評価

寺沢薫

予想と違ったトップ下での先発

C・ロナウド(白)を追う香川(赤)。先発出場を果たしたが、効果的な働きができず途中交代に終わった 【Getty Images】

「期待を裏切らない試合になる」

「誰もが待ちこがれているゲーム」

 アレックス・ファーガソン、ジョゼ・モリーニョという2人の名将がそれぞれこう表現したチャンピオンズリーグ(CL)・ベスト16屈指の好カードがとうとうその幕を開けた。イングランドでは戦前から報道がヒートアップ。ファーガソンとモリーニョの師弟関係にも似た敵対の歴史、古巣対決で感情的になるクリスティアーノ・ロナウド、そのC・ロナウドの攻略法検証など、ビッグマッチだけに切り口はさまざまだった。そんな中、さすがに香川真司をフィーチャーした記事こそなかったが、大半のメディアやサポーターのフォーラム(掲示板)では、予想先発メンバーに香川の名前があった。

 香川は日本代表として6日のラトビア戦でフル出場した影響で、10日のプレミアリーグ(エバートン戦)はメンバー外だった。ファーガソン監督がCL前日会見で「明日の試合で彼を使うことに決めたから、エバートン戦で彼を休ませることにした。明日の試合のどこかでプレーすることになるのは確かだ」と話していたことから、香川先発の予想はそう難しくはなかった。

 予想と違ったのは、スタートの位置が最近の定位置だったサイドではなく、トップ下だったこと。敵地サンチャゴ・ベルナベウに乗り込んだマンチェスター・ユナイテッドは、トップにロビン・ファン・ペルシー、トップ下に香川、左にダニー・ウェルベック、右にウェイン・ルーニーという布陣で決戦に臨んだ。

「彼の夜ではなかった」

 立ち上がりから、積極的にファン・ペルシーを追い越し、相手守備陣の裏を狙う香川の姿勢は見て取れた。ウェルベックの先制点につながったCKも、香川の飛び出しから生まれたものだった。しかし、イングランドメディアの評価は得られなかった。先制ゴール以降、徐々に存在感は希薄になり、64分にライアン・ギグスとの交代でピッチを後にした。主要各紙の採点をチェックすると、この大一番で先発に抜てきした指揮官の期待には応えられなかった、とする向きが強い。

 各紙の採点傾向はほぼ同じだ。マン・オブ・ザ・マッチは満場一致でビッグセーブを連発したGKダビド・デ・ヘア。最も評価が低いのはC・ロナウドとのマッチアップに四苦八苦した右SBのラファエウ・ダ・シウバ。それに次ぐのが香川真司というのが大方のパターンだ。

『ガーディアン』はラファエウ(4点)に次いで低い5点を付け、「(サミ・)ケディラとシャビ・アロンソが彼を遮断し、ボールを受けるのに苦労した。彼の夜ではなく、交代は妥当だった」と寸評。『デイリー・メール』も同様の5点で、「突破力に欠けていた。ユナイテッド加入当初に見せていたようなベストフォームを取り戻す必要がある」とした。

「前半、何度かファン・ペルシーの裏にスペースを見つけていたが、徐々に影響力が弱まり、交代した」と記した『インディペンデント』、「試合に現れたり消えたりで、やや失望の出来。カウンターアタックに関しては、彼のランニングが最も相手DFの脅威に見えた」と評した『デイリー・ミラー』の2紙は一定の評価も与えているが、採点自体はいずれもチーム最低の5点が付けられた。

 また、ミラー紙のデイヴィッド・マクドネル記者はマッチリポートの中で、「香川の起用は逆効果で、ギグス投入は正しかった」と彼の名前を挙げている。そのほか、『ザ・サン』や『デイリー・メール』のマッチリポートでは、ギグスと交代する香川の名前の前に、「ineffective(無力)」という形容詞が付けられた。

 地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』の付けた採点は7点。先発組の中で最も低い数字ではあったが、ルーニーやファン・ペルシーら4選手と並ぶ及第点の評価を付け、「特に前半、彼の知性と動きは、時折レアル守備陣を脅かした。だが、良いポジションにいるときに、密集地帯でポゼッションを失うこともしばしば」と寸評した。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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