【優勝/準優勝監督インタビュー】 関東第一高校・米澤監督が振り返る夏(後編)
【©氏原英明】
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洗練された守備をベースに東東京代表の関東一が準優勝を果たした。
大会5試合で失策はたったの3個。派手さのないチームが緻密に戦って優勝まであと一歩の戦いを見せたのは戦いぶりだった。
「でもやっぱり、私も10-0で勝ちたいという恩師の小倉全由と同じ気持ちではいます。それができなかったから、今年に関してはこういう戦いになりました」
就任して25年になる米澤貴光監督が目指しているのは20人全員で戦う野球だ。
ただ、それは大会において全選手を出すということではなく、さまざまな戦いに応じた戦力として戦える選手にして挑むという意味である。
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最初はなかなか練習試合も組めなくて、公立高校と試合をすることが多かったんです。肩が弱いから試合に使わないとかではなくて、もう駄目だったらしょうがないよっていうやり方でいろんな使い方をするんですよね。こういう野球ってあるんだなというのを勉強させてもらいました」
常に関東一にはいろんなタイプの選手がいる。攻撃型、守備型と得意なものを持っていて、選手の構成を見て年度によって戦い方を変える。実は準優勝をしたチームは当初、攻撃型だった。
「遊撃手の市川やライトの成井は去年の秋は試合の終盤に出る選手でした。それが低反発バットの導入などもあってなかなか打てない中でどう戦っていくかと考えた中で、今の形になりました。夏の都大会の初戦も打ちに入ったんですけど、苦戦をしまして、そこからは守備をベースに戦っていこうと思いました」
もっとも、守備型にしたとはいえ、ベンチ入りの選手全員が守備力に長けた選手を選んでいるわけではない。
試合展開によって戦い方を変えることもあるので、そのための戦力は準備しておく。選手たちにもそれを求めていて、「どこで勝負したいのか」を投げかけている。守れなくても一振りにかける選手は大抵練習の1本目から一打の意識が高いという。
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Bチームにいるからベンチ入りが見込めないわけではなく、試合経験を積ませた上で、徐々に戦力として見極めていく。
米澤監督はチームのマネジメントについてこう話している。
「ギリギリまで試合経験の多さを重視しています。6月の下旬までAチームの2本目は変速ダブルだと試合に出れなかったりするので、Bチームにいってもらって、多く打席を立たせることもあります。それでもBに落ちると落ち込む選手もいるんですけど、そこはスタッフと連携をとりながら、そうじゃないんだよと話しています。
どこのタイミングでチームをひとつにするかは決めていないのですが、ベンチに入るためにどうするべきかを考えるように選手には伝えています」
守備型を標榜したこの夏のチームはそうしてレギュラーが決まったが、甲子園2回戦の北陸戦では代走・代打を送って試合の流れを変えたりした。そうして勝ち切っていくのが関東一というチームだった。
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「現役を終える最後の2年くらいの時に肩を壊したんですよね。その時に、どうしたら試合に出られるかを考えて、代打・代走の出場機会を探しました。
シダックスは監督さんがそういうところを見てくれる方でした。当時の社会人野球は金属バットだったのでイケイケだったんですけど、監督さんが代走や代打、守備固めをしっかり使われたんです。
シダックスというチーム自体も社会人野球の中ではトップではなかったというのもあったと思います。1つ下のグループだったので、それでも上を倒してやろうというのがあったので、1人に頼って戦うのではなく全員で戦うという感じだったんですよね」
米澤監督は複数投手起用を早い段階から取り入れてきたし、代打や守備固めを積極起用とする戦い方は、固定した9人で戦いがちな高校野球の中では珍しいチームづくりをしてきた。
当然、求めるものは多くなる。スラッガーのような存在がそう多くいるわけではないとはいえ、チームの決まり事は多く、それを徹底的に叩き込むことで、野球力の高さを身につけさせたいと米澤監督は考えている。
高校野球の世界だけではなくて、大学野球や社会人、最近ではプロにも多くの人材を輩出している背景には戦略を熟知した選手に育てらているというのもあるだろう。
米澤監督は、選手に求めていることはシンプルだとこう語る。
「誰もができることをしっかりやることを目指しているのかなとは思います。今ちょうど新チームでそれをすごく言ってるんですけど、誰でもできることだろって思っていることができないので、それができるようになりなさいって話をしていますね。
ランナーのリードにしても、守備位置にしても誰でも変更できることなんです。それを教えるのが高校っていう場所だと思うんです。
なかなか中学生で教えたりというのは難しいことだと思うので、できる限り勝つために何をすればいいのか、そのベースが守備だったり、守り方だったり、打つことでもやれることをやる。ルールは当然あるので、誰にでもできることをやれと言ってます」
誰もができることは細部に渡る。リードや配球への理解、そこからのポジショニング、中継プレー、カバーリング、打席での狙い球の絞り方など。基礎の徹底が上の舞台で必要とされる人材になっていると言える。
昨今は放任主義や主体性が重視される世の中だが、基礎・基本を知らないままに育つと社会から置いてきぼりを食らう。
野球もまた同じで、しっかりと上の世界で戦える素養を身につけさせることは大人の役割かもしれない。
【©氏原英明】
「野球を知っているチームにしたいです。この高校を通過する子たちは野球を知っていてほしいし、しっかり教えたいなと思います。下手でも戦術的なことをちゃんと野球がわかって大人になったときに教えられるような、語れるようになって欲しいですね。
メジャーリーガーもカバーリングに行きますから、そこを見れるようにしたいですね。それで野球がうまかったら続けていくでしょうから」
【©氏原英明】
洗練された守備は大会の注目の的となったと言って良かった。米澤監督の25年の指導における一つの集大成のチームだったのかもしれない。
(取材/文/写真:氏原英明)
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