佐藤寿人、偉大なストライカーが持つ特別な才能=“感謝”の気持ちとともに戦い続ける
アシストを決めた選手に抱きつく
居残り練習のパートナーに指名された清水(右)は佐藤のゴールをアシストするまでに成長 【Getty Images】
佐藤は二人に、クロスを入れるタイミングや空間座標を徹底して教え込んだ。求めるボールが入ってこないと、厳しく指弾。納得がいくまで何本も何本も、クロスを求めた。
佐藤の動きについていくのは、並大抵のことではない。DFの動きの逆をとることを常に考え、アイデアを繰り出す。時には止まり、時には逆サイドへと動く。絶妙な緩急のリズムで相手を幻惑し、プル・アウエーの動きでスペースをつくる。そして何より、日本人屈指の起動スピードで、一瞬にしてDFを置き去りにする。J1通算117得点をたたき出した「ヒサト・スタイル」は、佐藤自身が自分の特性を最大限に生かして点を取るために、自らの研さんと思考から生み出したもの。そこに有効なクロスを供給するには、技術はもちろん、「ヒサト・スタイル」についていくための発想力と思考力が求められる。
清水と石川は、難しい課題をクリアすべく、毎日のトレーニングで工夫を重ねた。その結果、二人はリーグ戦で共にエースのゴールをアシストできるまでに成長する。
首位攻防戦となった9月15日の仙台戦。左サイドを突破した清水がクロスを入れる。逆サイドに詰めていた石川が折り返し、高萩洋次郎が決勝点をゲット。この時、佐藤は脇目も振らずに石川へとダッシュ、猛烈に抱きついた。「(石川)ノリが練習からしっかりと続けてきたことが、この得点につながった。本当にうれしかった」と試合後、佐藤は興奮した面持ちで言う。また石川も「いいクロスを出せなくても、寿人さんはいつも僕を信じて、走ってくれる。その寿人さんが、ゴールを決めた洋次郎くんではなく、僕に抱きついてくれた。優しいなと思った」と笑顔を見せた。
感謝の思いを言葉とプレーで表現
「愛する妻の奈央、そして玲央人と里吏人、二人の息子に感謝をささげたい」
MVP受賞のあいさつを、佐藤は家族の名前をあげて締めくくった。思えば彼は、まだサッカー選手としての基盤を確立していなかったジェフ市原時代に妻と出会い、セレッソ大阪に移籍した時も彼女とともに過ごして、苦境を支えられてきた。
サッカーも、そして人生においても、自分は一人ではない。
そんな現実をしっかりと認識し、感謝の思いを言葉とプレーで表現できる。それもまた、佐藤寿人という偉大なストライカーが持つ大きな才能だ。
佐藤は12月6日、クラブW杯の舞台に臨む。「自分たちのサッカーが世界でどれだけ通用するのか、ワクワクしている」。授賞式後、笑顔でそう語った佐藤の目は確かに世界をとらえていた。
<了>
(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)