ベルギー人がプレミアの新トレンドになった理由=“空白の10年”を経て、黄金時代が幕を開ける
今季からチェルシーに加入したアザール。プレミアで眩い輝きを放っている 【Getty Images】
FIFAワールドカップ(W杯)には82年スペイン大会から02年日韓大会まで6大会連続で出場。98年フランス大会はグループリーグ敗退に終わったが、これを除く5大会ではベスト16以上、86年メキシコ大会ではベスト4に入っている。
この時代の原動力となったのが、イタリア・セリエAで活躍し、ミシェル・プラティニも絶賛した司令塔エンツォ・シーフォや、ベルギー代表歴代最多の96キャップを誇るヤン・クーレマンス。そして、ブンデスリーガのシャルケ04でプレーしたファイター、マルク・ヴィルモッツといった中盤の名手たちだった。しかしながら、06年、10年と2大会連続でW杯出場を逃し、ユーロ本大会もオランダとの共催だった00年大会を最後に遠ざかっていた。
だが、この“空白の10年”がベルギー新時代の土台となったのだ。
サッカー協会とクラブチームが協力した改革
パス&ムーブを基調とした4−3−3システムを各世代代表の基本戦術として導入。アンデルレヒト、スタンダール・リエージュらの強豪も、ベルギーサッカー協会と密にコミュニケーションを図りながら戦術改革に取り組んだ。
スカウト網の充実にも余念がなかった。
育成面でスペインやドイツと比較すると立ち遅れているイングランドはほぼ同時期から若年層の育成に力を入れており、10歳以下の子供たちの発掘に力を入れてきた。日本の小学4年生以下の世代である。換言すれば10歳以下で切り捨てられる子どもたちも多数いる、ということだ。ところがベルギーの各クラブ、協会の育成年代関係者はその逆をいった。スカウト年齢の対象を日本の中学2年生にあたる14歳まで引き上げ、より広範な人材発掘を地道に実行していったのである。
こうした取り組みが10年の歳月を経て、テクニックに優れるベルギー人選手のブレイクを可能にしていったのである。
新たなトレンドとなりつつある
昨季王者マンチェスター・シティの最終ラインの要といえば、強烈なリーダーシップで個性派を束ねるヴァンサン・コンパニ。同じくセンターバックではアーセナルのトーマス・フェルマーレンも2009年からプレミアでプレーする。アーセナルの宿敵トッテナムには、今季アヤックスからヤン・ヴェルトンゲンが加入。吉田麻也はアヤックスから移籍してきたこの逸材を「オランダでプレーしていた時から注目してきた。同じ世代だし、刺激を受ける」と評している。
MFはさらに華やかな面々だ。先の夏の移籍マーケットでは、チェルシーが21歳のエデン・アザールを獲得し、3200万ポンド(約39億円)の高額な移籍金で話題となった。チームメイトのオスカール(ブラジル代表)は「アザール、ファン・マタ(スペイン代表)と僕との3人で新しいチェルシーを作っていきたい」と語り、そのテクニックを絶賛する。現地紙の記者の中には「世界最高のトリオ」と評価する声もある。
さらに、エバートンには3人のベルギー人選手が所属している。5年目を迎える長身MFのマルアン・フェライニのアフロヘアーは、もはやプレミアファンならずともおなじみだろう。今季からはMFヴァディス・オジジャ・オフォエ、FWケビン・ミララスらが加わっている。
ここまでトップ4に食い込む健闘を披露し、サプライズを起こしているのがウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン(WBA)である。知将スティーブ・クラークの前線には、突出したフィジカルを誇るFWロメル・ルカク(チェルシーから期限付き移籍中)が欠かせない。
このようにプレミアにおけるベルギー人ブランドは、フランス、スペイン、ブラジル、アフリカ諸国といった定番にも匹敵する供給量である。