ベルギー人がプレミアの新トレンドになった理由=“空白の10年”を経て、黄金時代が幕を開ける

鈴木英寿

ベンゲルが分析するベルギー人成功の背景

現在、W杯予選で首位に立つベルギー代表は、02年以来のメジャー大会出場を目指す 【写真:Image Globe/アフロ】

 プレミアリーグに大挙ベルギー人選手がやってきたからと言って、彼らが成功を収めたと結論づけるのは早計だろう。ただ、ベルギーサッカー界が取り組んできた近年の成果には、高い評価がつけられる。

 この新トレンドを的確に解説してくれるのが、アーセナルのアーセン・ベンゲル監督である。プレミアの名伯楽はこう分析している。

「(ベルギー人がプレミアリーグで数多くプレーしているのは)若手育成の成果だろう。加えて、ベルギーが移民に強固なポリシーを持っている国であることもプラスになったのではないか。フェライニ(モロッコ系)やコンパニ(コンゴ民主共和国系)、トッテナム所属のムサ・デンベレ(マリ系)の家族は移民である。ベルギーは移民の受け入れに関して、優れたシステムを持っており、異なる国から来た選手も素晴らしい教育を受けることができる。まさしく、かつてのフランスがそうだったように、現在のベルギーサッカー界は移民系と本国系がうまく融合している」

 ベンゲルの言うかつてのフランスとは、98年のW杯と00年のユーロでレ・ブルー(フランス代表の愛称)が優勝を果たした当時を指している。

 この時の主力だったパトリック・ヴィエラ(セネガル系)、エマニュエル・プチらのフランス代表選手は、現在のベルギー代表選手のようにプレミアに新たな潮流を築いていった。

“養成クラブ”として築いた他国との友好関係

 フランスとの比較について、ベンゲルはこうも語っている。

「現在のフランスサッカー界は、かつてほどのタレント供給源ではなくなっている。理由は分からない。ただ他国のアカデミーのほうが、より目覚ましく発達していることは言える。それでも、若いベルギー人を獲得するのはリスクを伴う。ここでものを言うのがスカウト網だ」

 ベルギーのクラブは他国の有力クラブに“養成クラブ”として、トップチームのプラットフォーム、つまり「活躍場所」を貸し出してきた歴史がある。結びつきが最も強かったのがプレミアリーグであり、それゆえイングランドのスカウト網もベルギー人選手に関しては抜け目がない。

 今季を見ても、ロイヤル・アントワープFC(ベルギー2部)にはルーク・ギベリン(マンチェスター・ユナイテッド)、ズルテ・ワレヘム(ベルギー1部、26日現在2位)にはソーガン・アザール(チェルシー/エデン・アザールの弟)が期限付き移籍中で、そのほかにもチャンピオンシップ(イングランド2部)のクラブもベルギーの各クラブとは友好な提携関係を築いている。ベルギー人選手がオランダ・エールディビジやフランス・リーグアンに渡っても、イングランドのクラブはモニタリングと情報収集を継続して行ってきた。こうした業界事情も、ベルギー人のプレミア入りを加速させた理由の一つである。

 屈指のタレント集団と化しつつあるベルギー代表だが、最新のFIFAランキングでは20位。クロアチア、セルビアと同居した14年W杯・ブラジル大会の欧州予選グループAでは、4試合消化時点で堂々の首位につけており、黄金時代再来との声も聞こえてくる。

「一歩、一歩、進むまでさ」とは、現在はベルギー代表監督を務めるヴィルモッツだ。指揮官は、エデン・アザールを特別扱いせず「代表でスタメンを張りたければもっと成長せよ」とげきを飛ばす。

 そう、彼らはまだ何も勝ち取っていないのだ。

 それでも、世界最高のリーグでプレーするベルギー人選手の活躍を見るにつけ、将来への期待は高まる一方だ。プレミアリーグを見る限り、ベルギーサッカー界の“黄金の10年”が幕を開けた感すら漂ってくる。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1975年生まれ。仙台市出身。仙台一高、東京理科大学卒。『週刊サッカーダイジェスト』編集記者を経て、2005年に退社。2006年からFIFA.com日本語版編集長を務め、FIFAドイツ・ワールドカップ、FIFAクラブワールドカップの運営に携わる。2009年、ベガルタ仙台のマーケティングディレクターに就任。2010年末より当時経営難に陥っていた福島ユナイテッドFCのアドバイザーを務め、2011年2月から2012年7月までは同クラブ運営本部長として、経営難と東日本大震災という二度の難局を乗り切った。2012年8月よりFIFA.comに復帰し、9月より渡英。現在はプレミアリーグ、チャンピオンズリーグなどの現場を取材しながら『Number』や『ワールドサッカーダイジェスト』などに記事や翻訳を定期的に寄稿中。訳書に『プレミアリーグの戦術と戦略』(ベスト新書)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント