西武の新1番・浅村栄斗がこだわる第1打席

中島大輔

振り込みとダッシュを繰り返しで取り戻した体のキレ

ケガや不振による2軍落ちの経験を経て、後半戦は成長を実感したという浅村 【写真は共同】

 今季、開幕から5月中旬まで打率1割台の不振を極めた理由は、春季キャンプで左太ももを負傷したことが発端にある。かばいながら開幕への準備を続けたが、右足首、左足首をともに捻挫するという悪影響が出た。

 5月上旬、土井正博ヘッド兼打撃コーチはこんな指摘をしている。
「キャンプで故障し、打ち込みとランニングが不足していた。しっかりした股割ができていない分、上体で打とうとしている。下半身でバットを振りにいくのをやめられない分、ボールの見境がつかない。ボールに手を出して、ピッチャーカウントになってしまう。ストライクに手が出ない。良い時は間ができているけど、今は間抜けになっている」

 5月21日に登録を抹消され、6月13日に再登録されるまで2軍で過ごした。この間、バットの振り込みと3日に1度のダッシュを繰り返した。1軍昇格後もこれらのメニューを続け、徐々に体のキレを取り戻していく。その成果は夏場に表れた。

 浅村らしい豪快な当たりが戻ったのは、8月18日の楽天戦だ。3回の第1打席で、ヒメネスが内角高めに投じたツーシームをレフトスタンドに突き刺した。
「自分でもビックリしました。1年に1回あるか、ないかの良い打ち方。バットも自然に出たし、体が反応できました。最近はアウトになっても、内容は悪くなかった」

 内角の厳しい球に対し、体を上手く回転させてレフトに弾き返す。下半身の粘りでパワーをため込み、上半身を連動させる打ち方は浅村の原点でもある。
 8月31日のロッテ戦の前、こんな話をしていた。
「今は、高校の時みたいな打ち方を思い出しながらやっています。タイミングをゆっくり取って、足を高く上げる。それが自然にできています」

「1打席目はとにかく集中する」

 浅村は、いわゆる“天才肌”の選手だ。考え抜いた先に好結果があるのではなく、感覚が研ぎすまされた時に好パフォーマンスを見せる。その特長がよく表れたのは、9月21日に行われた日本ハム戦の8回にセンターへ同点タイムリー安打を放った第4打席だ。1ボール、1ストライクから吉川光夫が3球続けたカーブを弾き返した。
「確かにカーブが続いて、打った球もカーブです。でも、打つ前は『カーブが続いたから、次はこのボール』とは考えていませんでした。カーブを3球見られたことと、結果は関係ありません。変に考えず、無心でいけたのが良かったと思います」

 この試合は、首位・日本ハムと2.5ゲーム差で迎えた一戦だった。パ・リーグの天王山の初戦で、浅村は普段以上の力を発揮した。
「この3連戦は特に負けられない。その気持ちがプラスアルファになっています。いつも以上に、『やってやろう』と。その気持ちにうまいこと体がついてきました」

 10月13日、本拠地の西武ドームで福岡ソフトバンクを迎え撃つクライマックスシリーズのファーストステージ。「緊張もあった」という昨季とは、変わった姿で臨む。

「今年はいろいろありました。2軍に落ちて、1軍に上がってきてからは自分の思っている感じでできています。打率は2割4分5厘とまだまだ低いですけど、後半戦は勝利に直結するプレーをできました。それが自信になった。CSという大舞台でどれだけできるか、自分でも期待しています。もし1番で試合に出られるなら、簡単にアウトにはなれない。しょうもないアウトになったら、後ろにも悪い影響が出てきます。1打席目はとにかく集中する」
 紆余曲折を経て、自身の成長を実感する浅村。チームの先頭打者として臨む1回裏の第1打席で、ライオンズに流れを呼び込むつもりだ。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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