コスモポリタン(国際人)となった青木真也=「ONE FC」シンガポール大会現地リポート
“ホーム”シンガポールで衝撃一本勝ちデビュー
新しい本拠地シンガポールでのデビュー戦を一本勝ちで飾った青木 【早田寛】
ケージの一角に設けられたメディア席。青木真也が1R1分25秒、三角絞めでアルナウド・ルポンを失神させると、隣の席に座っていた現地の格闘技サイト記者BENLIUさんは流暢な日本語を操りながらハイタッチをしてきた。
「やっぱり青木はすごいよ」
10月6日(現地時間)、シンガポール・インドアスタジアムで行われた『ONE FC06 Rise of Kings』。日本人選手が4名も出場することで話題を集めたが、さらに日本人選手が出場するプランもあったというから驚きだ。肝心の日本勢は3勝1敗と大きく勝ち越した。第4試合に出場した上田将勝はソン・ミンジョンに競り勝ち、バンタム級GP準決勝に進出した。
パンクラスのミドル級王者である川村亮はメルビン・マヌーフの右一発に沈んだが、セミファイナルのONE FCライト級王座決定戦に出場した朴光哲はゾロバベル・モレイラに逆転KO勝ちを収め、真新しいチャンピオンベルトを腰に巻いた。
そして迎えたメインイベント、青木の心中は穏やかではなかった。というのも、キム・スーチョルに逆転KO勝ちを許してONE FCバンタム級王座奪取に失敗したレアンドロ・イッサや、朴に敗れたゾロバベルはEVOLVE MMAでの同門であるからだ。
試合後、控室で青木は筆者に偽ざる心境を吐露した。
「こういうこともあるかとは思っていたけど、正直どうしようと悩みました。でも、ウチ(EVOLVE MMA)は本当にチームで闘っている。なので、俺たちはこのままじゃ終わらないと腹をくくりました」
父親となったことで生まれた“悩み”
長男を抱え喜びを爆発させる青木 【早田寛】
その一方で、青木はもうひとつの悩み事があった。長男を授かったことで、試合をすることが怖くなったというのだ。MMAは時として自分の命すら脅かされる競技である。青木がそういう感情を抱くのも不思議ではない。しかし、どこかでそういった感情を断ち切らなければ、先には進めない。
朴光哲への敵討ち&タイトル奪取を誓う
鮮やかな三角絞めでシンガポールのファンに強烈アピール 【早田寛】
青木の場合、現地では一般マスコミへの露出も多いため、そのネームバリューは我々が想像する以上に高い。今回二大タイトルマッチを差し置いて、対ルポンがスーパーファイトとしてメインイベントに組まれたのはONE FCの中でも青木が別格の扱いを受けているからにほかならない。
「だったら、なぜ青木はONE FCのタイトルマッチに絡まなかったのか?」という質問は愚問だろう。今夏、ワールドグローリーに吸収されたイッツ・ショータイムの世界王座に最後までジョルジオ・ペトロシアンが絡まなかったのと同じことだ。
果たして、場内に青木の入場テーマ曲である『バカサバイバー』が鳴り響くと、観客席の興奮度は一層高くなったように思えてならなかった。冒頭で紹介した日本のMMA贔屓のBENLIU記者は「まさかシンガポールでこの曲を聴けるようになるとは……」と感無量の様子だった。
MMAが禁止されているはずのフランスのMMA王者を名乗るルポンは青木の敵ではなかった。しかしながら、プロモーションフィルムや公開計量では青木を挑発するパフォーマンスに徹したため、当日会場に集まった観衆は大きな期待を抱きながらこの一戦を楽しめたのではないか。試合前の期待値が高くなければ、どんなマッチメークでも盛り上がるはずがない。
試合後、青木はリング上でゾロバベルの敵討ちを誓った。
「今日はEvolveのゾロ(バベル)がやられたんで、Evolveの弟がやり返しました。アイ・ウォント・タイトルショット!」
おそらくゾロが負けなければ、青木は違う話題を口にしていただろう。それだけ普段一緒に練習しているブラジリアンファイターの敗北が悔しかったのだ。近々、青木が朴に挑戦するタイトルマッチは実現するのだろうか。
コスモポリタンとして闘う道を選んだ青木にとって、異国での日本人同士のタイトルマッチを妨げるものは何もない。
(文・布施鋼治、写真・早田寛)
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