中村GM誕生で阪神ファンが抱える不安=致命的な球団とファンの“感覚のズレ”

山田隆道

ビッグネームの獲得では失敗も…

ベンチで硬い表情の阪神・和田監督。ファンにとっても厳しいシーズンとなっている 【写真は共同】

 しかし、その一方で失敗が多い監督でもあった。代表的な事例としては、92年オフの「阪神・野田浩司⇔オリックス・松永浩美」のトレードだろう。当時24歳と伸び盛りであった右のエース格・野田を放出してまでオリックスの大物内野手・松永を獲得したものの、松永は故障で期待通りの活躍ができず、一方の野田はオリックスで最多勝を獲得してしまうという大失態。
 松永以外にも、中村監督時代にはトレードやFAなどで高橋慶彦、石嶺和彦、山沖之彦といった他球団のビッグネームを次々に獲得しているが、彼らもことごとく活躍できなかった。また、外国人もオマリーやパチョレックの成功の陰で、マーベル・ウィンやロブ・ディアーなど、元大物メジャーリーガーの看板を引っ提げて来日したものの活躍できなかったという失敗例も多い。おまけに、せっかくの優良助っ人・オマリーを解雇し、あろうことか翌年ヤクルトに移籍されてしまうという情けない顛末(てんまつ)まであった。

 もちろん、以上のすべてに中村監督が深く関与していたわけではなく、中には球団主導の事例もあったのだろうが、それにしても彼が当たり外れの大きい人物であることは否めない。当たり外れといえば、オリックスのGM、監督、球団本部長といった要職を歴任していた時代もそうだ。金子千尋、T−岡田、平野佳寿、岸田護といった現在の主力選手の獲得に関与した一方で、清原和博や中村紀洋などベテランの和製大砲の獲得に関しては、チームとしてあまり機能しなかったという苦い思い出もある。

球団と現場の「パイプ役」にしかならないのでは!?

 こういった当たり外れの大きさが、現在の阪神のGMとしてはどう機能するのか。期待もあれば不安もあるわけだが、阪神ファンとしての本音を正直に書くと、不安のほうがはるかに大きい。物事を前向きに捉えようと努力しても、やはりスポーツという勝負の世界では縁起を重視する部分もあり、その意味では中村GMは確かに縁起が悪い。

 また、そもそもチームの編成を統括するGMという役職は、多くの事柄をゼロからスタートさせる新興球団、あるいは新生球団でこそ威力を発揮できるものであり、阪神のように歴史が長く、外野からの雑音が何かと多い老舗球団にはあまり適していないような気もする。GMという重要な肩書を背負っておきながら、その内実はそこまで編成権限を与えられず、球団と現場、はたまた老舗ならではのさまざまな事情などを巧みに調整するパイプ役としてしか機能しないのではないか。
 なにしろ、中村GMが就任する前の段階ですでに金本知憲の来季残留路線が報じられたり、そのほかの何人かの選手の去就に関する話題がニュースをにぎわしたり、球団主導による編成的な動きが表立ってしまったのだ。そういった編成こそが中村GMの仕事であるはずなのに、阪神球団が先んじて動いていたということか。それが事実なら、そもそもGMってなんだろう。

変化の姿勢を見せるだけのGM導入は望まない

 中でも一番怖いのは、GMを置くことで世間からの批判の矛先がGMと監督の二人に分散されるだけの結果、つまりGMがスケープゴートのような存在になったときだ。ファンによる和田監督への批判が日増しに高まる中、球団が「とりあえず何かを変えた」という姿勢を見せるためのGM導入なら、僕はやりきれない気持ちになってしまう。

 果たして現在の阪神球団は、冒頭で書いた冷ややかなファン世論をどう受け止めているのか。日進月歩する情報社会にあって人気商売を掲げるなら、ネットを駆使することでいくらでも大きくなるファンの反応というものを、甘く見てはいけないと思う。

<了>

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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