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「ホスト国の一員」として何ができるか?
U−20女子W杯盛り上げ隊の活動を振り返る

「閑散としたスタンドが世界中に配信されたら……」

世界中から集まった支援に対し、会場では横断幕でお礼のメッセージを伝えた
世界中から集まった支援に対し、会場では横断幕でお礼のメッセージを伝えた【U−20女子W杯盛り上げ隊】

「試合後、日本のファンの方からユニホーム交換を申し込まれて、喜んで受け入れた。サイズはちょっと小さいのだけれど(笑)、ありがたく受け取ったよ。今日の試合後も、日本の観客から、たくさんの拍手と激励をいただいた。私は5歳からサッカーを始め、37年間サッカーに携わってきたが、今回の日本での経験が最も感動的で素晴らしい瞬間だった。FIFA(国際サッカー連盟)、そして日本全国の方々にお礼を申し上げたい」


 U−20女子ワールドカップ(W杯)の日本対スイスの試合後、スイス代表を率いていたシュベリー監督は日本のファンと交換したジャパン・ブルーのユニホーム姿で、このように感謝の言葉を述べていた。このエピソードについては、先のコラムでも触れているので、これ以上の引用は控えるべきだろう。それでもあえて引っ張ってきたのは、上記の発言が「U−20女子W杯盛り上げ隊」(以下、盛り上げ隊)が果たした、最も具体的な成果であることを強調しておきたかったからである。


 盛り上げ隊のオリジナルメンバーは、代表系サポーター集団「ちょんまげ隊」のリーダーであるツンさん、女子サッカーライターで多数のなでしこ関連書籍を上梓している江橋よしのりさん、そしてスポーツライターで女子サッカーに造詣の深い上野直彦さんの3人である。ちょんまげのカツラにプラ板製の甲冑(かっちゅう)姿で、いつも代表のアウエー戦に参戦しているツンさんは、そのスタイルゆえに「色ものサポーター」と見られがちであるが、東北の被災者支援活動を手弁当で継続的に行うなど、非常に高い問題意識と爆発的な行動力で周囲を巻き込む力を兼ね備えた、バイタリティーあふれる人物として私は認識している。そんな彼が、ある女子サッカーのイベントで江橋さんと今大会について話しているうちに、やがて言いようもない不安を覚えるようになった。


「とにかく大会が、まるで盛り上がっていないと。大会自体が知られていないし、日本戦以外の試合は集客的にも難しくなるだろう、という話を聞きました。でも、せっかくFIFAの国際大会が日本で開催されるわけじゃないですか。僕個人としては、2002年のW杯の時に『ベッカムさま』とチケット問題ばかりが話題になっていたことが、ものすごく気になっていたんです。もしもう一度、日本でW杯を開催できれば、あの時の100倍楽しめる大会になると思います。でも、今度のU−20女子W杯で、閑散としたスタンドが世界中に配信されたら……。そう考えると『ホスト国の一員』として、僕たちで何かできることをしなければ、と考えるようになりました」

盛り上げ隊の目的は「集客・応援・感謝」

 思ったことは、すぐに行動に移す。その行動原理に基づいて、ツンさんがまず始めたのは「仲間を集めること」であった。女子サッカー方面に人脈が多い江橋さんと上野さんに管理人になってもらい(ただし事後承諾)、フェイスブック上に「U−20女子ワールドカップ盛上げ隊」というグループを立ち上げたのが5月31日のこと。瞬く間にメンバーは増加し、サッカーライター業界、スポーツビジネス業界、出版・メディア業界、その他ありとあらゆる業界のサッカー好きが糾合し、最終的に726名(9月7日11時時点)がこのグループに参加することとなった。


 盛り上げ隊の目標は、大きく3つ。すなわち「集客・応援・感謝」である。

 まず、集客。大会の認知度そのものを上げなければ、日本戦以外のスタンドはガラガラのままである。そこで盛り上げ隊では、チラシの製作・配布による「地上戦」と、メディアの露出による「空中戦」を地道に行うことにした。地上戦については、チラシを合計3万枚印刷して、開催地を中心に全国のサッカーファンが集まりそうな場所に配布している。一方の空中戦では、メンバーが自らメディアに登場して大会をアピールしたり、各媒体に女子サッカーを取り上げてもらうよう積極的に働きかけた。


 次に、応援。日本がマックス6試合を戦ったとしても、残り26試合は開催国以外同士のカードとなり、そこでスタンドが閑散としてしまっては、遠くから来日してくれた出場国の関係者に申し訳ない。日本以外のチームも応援して、大会を盛り上げようというのが主旨である。これにはツンさん自身の、海外での観戦経験が大きく影響していた。


「南アフリカのW杯でも、カタールのアジアカップでも、ホスト国の人たちが自分たちとは関係のない国を応援して盛り上がっていました。それはロンドン五輪でも同じで、男子サッカーの3位決定戦では、カーディフの人たちが日本と韓国、それぞれの国旗を振って応援していたんです。そうやって観戦者が参加することが、こういう国際大会では最も大切なことなんだと思います」


 そして、感謝。これは言うまでもなく、東日本大震災直後に世界中から集まった支援に対して、会場で感謝の気持ちを表すことである。これについては、支援へのお礼のメッセージを各出場国の言語に翻訳し、横断幕で掲出する案が採用された。発案者は、女子サッカーライターの江橋さん。昨年取材したドイツの女子W杯で、試合後になでしこの選手たちが、復興支援への感謝の意を表した英文の横断幕を掲げながらピッチを一周する姿を思い出して、このアイデアを思いついたという。


「あれをピッチ上からではなく、観客席から見せたらどうなるか。もちろん選手へのアピールにもなるだろうし、彼女たちがツイッターやフェイスブックでポジティブに伝えてくれるかもしれない。そうなれば『日本はもう安全なんだよ』というアピールにもつながって、貿易や観光の活性化や復興にも寄与できるのではないかと思ったんです」

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://tetsumaga.com/tete_room/)でもコラム&写真を掲載中。また、「宇都宮徹壱ウェブマガジン」(http://www.targma.jp/tetsumaga/)も配信中