「変化球は頭にない」クローザ―・涌井が追い求めるストレート

中島大輔

抑え転向でかつての姿を取り戻し始めた

抑えに転向し、かつての姿を取り戻そうとしている西武・涌井 【写真は共同】

「先発としての気持ちは捨てていないけど、今は抑えることしか頭にないです」
 昨季まで埼玉西武ライオンズのエースを張ってきた涌井秀章は、クローザーの役割を与えられた今、一心不乱にかつての姿を取り戻そうとしている。

 プロ入り8年目の今季序盤は、開幕戦から3連敗と不振を極めた。2009年に沢村賞を獲得した姿は、見る影もなかった。
「真っすぐのキレも変化球も悪い。ボールは高いし、緩急をつけられない。勝つピッチャーに求められる条件がすべて整っていない」
 渡辺久信監督はこう話した翌日の4月16日、涌井を登録抹消する。5月4日に再登録すると、エースをブルペンに回した。配置転換にはクローザー不在のチーム事情に加え、もうひとつの理由があった。

 夏真っ盛りの今、指揮官のもくろみは確かな成果として表れ始めている。
「真っすぐが良くなったね。腕を振れるようになった。そのために後ろにしたから」
 イニングを限定することで全力投球させ、腕を思い切り振れるようにする。シーズン序盤、シュート回転していた涌井のストレートは140キロ台後半を計測するようになった。

 キャッチャーの炭谷銀仁朗が言う。
「抑えになって、課題だった真っすぐで空振りやファウルを取ることができるようになってきました。抑えは1イニングだから、最初から飛ばしていけるんでしょうね」

戻った球速もさえない涌井

 7月25日の千葉ロッテ戦では2点リードの9回に登板し、無失点に抑えた。回の頭に代打として登場した井口資仁には5球のうちストレートを4球投じ、最後は真ん中高めに149キロの豪速球を投げ込み、空振り三振に仕留めた。
 井口がこの打席を振り返る。
「もともと真っすぐにキレのあるピッチャー。抑えだと1イニング限定だし、狙ってもなかなか打てません。ストッパーになりかけた頃とは、真っすぐのキレが全然違いました」
 7月26日のロッテ戦では1点リードの9回に登板し、14球のうちストレートを13球投じて無失点に抑えた。「抑えのピッチャーだから」。渡辺監督はそう力勝負を称えた。

 だが、涌井の表情はさえなかった――。
 この日の最速は149キロ。しかし、それはあくまで球速表示にすぎず、涌井には手応えのないボールばかりだった。
 翌日の試合前、涌井はこう胸の内を明かしている。
「145キロでも感触が良い時はあるし、150キロでも感触が悪かったら駄目。自分の中で、手応えのあるのはまだ数試合。それが3試合に2試合くらいになれば……。まだ全然駄目。昨日も駄目でした」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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