「変化球は頭にない」クローザ―・涌井が追い求めるストレート

中島大輔

ストレート主体の投球になっている理由

25試合で12セーブと結果は出ているものの、涌井は自身の出来に納得していないようだ 【写真は共同】

 本来の涌井は力強いストレートに加え、カーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップ、シュートなど多彩な変化球とのコンビネーションで打者を打ち取っていく投手だ。だが前述のロッテ戦2試合のように、クローザー役を務める今、ストレート主体の投球になっている理由はふたつある。

 ひとつは、「まだ全然駄目」と言っても、ストレートが最も打ち取る確率が高いからだ。井口が言うように、涌井が全力で投げ込むストレートを打つのは容易ではない。
 クローザー・涌井の投球スタイルについて、現役時代に先発、抑えの経験を持つ石井貴投手コーチが説明する。
「リリーフでいきなりいって、四隅を突くのは難しい。リリーフには勢いの部分がある。先発と違って、勢いが半分くらい」

 ストレートばかりを投じるもうひとつの理由は、思うような変化球を取り戻せていないからでもある。
 涌井が言う。
「変化球は、後ろにいる時は意識してもしょうがない。後ろになったら腕を振ることと、抑えることだけを考えています。変化球は頭にないです」

満足のいくストレートを取り戻せ

 クローザーにとって、とにかく求められるのは結果だ。5月4日のロッテ戦から8月3日の福岡ソフトバンク戦まで、涌井は25試合に登板して12セーブを記録している。この間、得点を奪われたのはわずか5試合。本人は自身の出来に納得していないものの、クローザーとして上々の結果だ。

 おそらく、涌井のクローザー役は今季限定だろう。来季から再び先発に復帰するはずだ。長いイニングを投げる場合、変化球のコントロールを取り戻すことが不可欠になるが、「そうなったら、オフにコントロールを上げていけばいい」と石井コーチは言う。

 今、涌井がやるべきは、とにかく思い切り腕を振ることだ。
 そうして単に相手を打ち取るだけでなく、満足のいくストレートを取り戻すことができるか。
 涌井の真の復活は、その一点に尽きる。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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