なぜ今、J2クラブに注目するのか?=J2漫遊記 第1回・FC岐阜編

宇都宮徹壱

アウエーの新参者に敗れた岐阜

松本の塩沢(白)を巧みな体の入れ方で止める岐阜の服部。かつての日本代表も、この日は守備に忙殺された 【宇都宮徹壱】

 それは、ある意味とっても「J2らしい試合」であった。

 5月13日、岐阜の長良川競技場で行われたJ2リーグ第14節、FC岐阜対松本山雅FCの試合。アウエーの松本はJFLから昇格して1年目ながら、ここまで4勝3分け6敗の14位につけているのに対し、ホームの岐阜は2勝3分け8敗の22位(すなわち最下位)に沈んでいる。昨年同様、外弁慶が顕著な岐阜は、ここまでホームゲームでの勝利数はわずか1。前節はアウエーで勝利しており(ファジアーノ岡山に1−0)、実に2年ぶりとなる連勝が期待されていた。この日の入場者数は、今季2番目となる5088人を記録。松本のサポーターも1000人ほどが駆けつけ、長良川のスタンドは好ゲームを期待する雰囲気に包まれていた。

 久々に見る松本は、3バックのシステムになっていた。並びは3−4−2−1。右の玉林睦実、左の鐡戸裕史、両サイドが攻撃の起点となっているが、その背後のスペースはやや危なっかしい。実際、岐阜は何度もサイドの裏を狙ったり、さらにセットプレーからもチャンスを作ったりしていたのだが、なかなかシュートが枠に飛ばない。それでも前半は岐阜がペースを握っていたのだが、先制したのは松本。40分、船山貴之のパスを受けた玉林が右サイドから低いクロスを入れ、弦巻健人がニアサイドから右足で流し込んでネットを揺らす。アウエーの松本が1点リードで前半は終了した。

 後半はすっかり松本のペース。どうしてもゴールが欲しい岐阜は自然と前がかりになるが、今度は松本が両サイドから最終ラインの裏をえぐるシーンが再三見られた。服部年宏とリ・ハンジェのダブルボランチは、中盤でなかなかボールを奪うことができず、最終ライン付近で相手の1トップ(塩沢勝吾)とダブルシャドー(船山と弦巻)への対応に追われた。とはいえ、後半の岐阜にもチャンスがなかったわけではない。32分、樋口寛規が左サイドをドリブルで切り裂き、中央で待ちかまえていた染矢一樹にゴールライン際でラストパス。この日がJ2出場100試合目となる染矢は、決めればヒーローとなるはずであった。しかし「それ、外すか!」と思わず天を仰ぎたくなるようなシュートミス。結局、岐阜は新参の松本に0−1で屈するという結果に終わった。

J2クラブが全国ニュースで取り上げられるには?

 ここからは、試合単体ではなく「J2」というコンテンツについて考えてみたい。

 実のところ私は、岐阜側の人間でも松本側の人間でもない。より正確を期するなら、岐阜は地域リーグ時代(06年)に、そして松本はJFL時代(11年)に、それぞれ書籍の執筆を前提として定期的な取材を続けていたが、いずれもJ2となった今は距離を置いた状態となっている(それぞれのクラブ関係者やサポーターとは、今でもつながりはあるのだが)。言ってみれば私は、岐阜の人から見ても、松本の人から見ても「よそ者」なのである。もちろん、両クラブに対して少なからぬシンパシーは感じてはいるが、さりとて明確な帰属意識を持っているわけではない。

 何が言いたいかというと、私のような第三者にとって、J2というコンテンツを楽しむには「いささかハードルが高い」ということである。私が岐阜もしくは松本に対して何らかの帰属意識があれば、問題はない。では一般的なサッカーファンにとっては、J2の14位と22位の対戦(第13節終了時点)に、果たしてどれだけの価値や魅力を見いだすことができるのか。これが「本来ならJ1にいるべき首都圏のクラブ(たとえば昨シーズンのFC東京)」とか、あるいは「J1昇格に向けて快進撃を続ける地方クラブ(たとえば昨シーズンのサガン鳥栖)」であれば、まだ全国的なニュースバリューを求めることも可能だろう。結局のところ、J2クラブが全国区の話題となるためには、まず「J1ありき」というのが(ほぼ)必須の条件となっているのが現状だ。

 では、昇格争いから縁の薄いJ2クラブが、全国ニュースに取り上げられることはないのだろうか。答えは「ある」。ただし大抵の場合、ネガティブな話題、具体的には「経営難絡み」である。大分トリニータしかり、東京ヴェルディしかり、岐阜またしかり。もちろん、クラブが身の丈に合わない放漫経営を行った結果、経営が悪化したのであれば、メディアはきちんと追求すべきであろう。しかしその一方で「経営悪化」の側面ばかりが強調されて、J2の存在そのものを否定的に扱うことについては違和感を覚えてしまう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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