現地時間５月１２日の「ＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥ　５６」ベルギー・コルトレイク大会で行われるサハーク・パーパリアンvs.アンドリュー・テイトの８５ｋｇ級タイトルマッチ。どちらも日本に馴染みの薄い選手だが、このタイトルマッチがオランダではちょっとした盛り上がりを見せている。挑戦者アンドリュー・テイトがサハーク・パーパリアンに１０００ユーロ（約１０万４０００円）の賭け勝負に出たからだ。勝者がベルトを腰に巻くのはもちろん、なおかつ敗者から１０００ユーロのボーナスを受け取る。パーパリアンがこの米国人テイトのオファーをどう受けるのか、周囲は楽しみにした。

　すると、「１０００ユーロ？　どうせなら５０００にしようや」と逆オファーをかけたパーパリアン。
　テイトは数週間沈黙したあと、早口でまくしたてるように映像ビデオで答えた。
「俺はさ、誰とでも戦うぜ。調子も絶好調よ。いつも絶好調だ。いつだって自分の最高の姿を見せるさ。ファイターだ。仕事だ。それが当然だ。試合に勝ってベルトを奪う。そして俺が次の８５ｋｇ世界王者になる。賭けだって俺は２０００でも３０００でもなんぼだっていいさ。俺はさ、ファイターだけど神の子だぜ。神の子としてリングに立つ。俺は選ばれしメシアだ。リングに降臨しメシアとしてファンを約束の地に連れて行く。日曜になったらみんなで俺を讃えて謳ってくれ。『テイトは偉大だ。テイトのＸＸはでかい。テイトは美男子だ』ってな。そしてカゴに金を入れてくれ。俺は神の子だけど金が必要なんだよ。だって、貧しいから。だから５０００ユーロも賭けには必要ない。初試合は１０００でいい。１０００ぐらいでやるのが妥当だ。俺は神の子だ。でもな、神の子も金が必要さ……」

　自己崇拝が俺の宗教だとテイトは言う。かなりなナルシストだ。威勢よく早口でしゃべるテイトだが最後は微妙にトーンダウンしていった……。面白い。

　王者サハーク・パーパリアンはアルメニア出身。アルメニア難民は全世界に６００万人ほどいる。ゲーゴ・ドラゴもペトロシアン兄弟も、ＭＭＡのゲガール・ムサシもベルギーのハルト・グリゴリアンも、みなアルメニア難民だ。母国を出た戦争難民に故郷は無い。今いる場で新故郷を再構築しなければならない。それが難民の人々が抱える現実的宿命だ。頼りは己の五体と親族のみ。肉体的にも精神的にもタフでなければ生き残れない。

――　ニックネームのハックですが映画のハルクからですか？

パーパリアン　（笑顔）いやいや違うよ。サハークを短くしてハク。みんなにそう呼ばれているうちにハックになっただけさ。

――　オランダに来たのは？

パーパリアン　１３歳のとき。「アルメニアにいても未来は無いからオランダに来い」って先に来ていた親戚が誘ってくれたので家族みんなで移住した。ちょうど21世紀の区切りだった。

――　キックを始めたのは？

パーパリアン　最初はサッカーさ。でもつくづく才能が無いことを知ってやめた。友人に誘われてキックボクシングジムを訪問した。同胞のドラゴたちにボコボコにされた。毎回ボコボコにされた。でも３カ月後にデビュー戦を組まれた。ドローだった。１６歳だった。それですっかりキックにはまっちまった（笑）。

――　ヘビー級に上げようとは？

パーパリアン　普通体重が９１ｋｇなのでちょっと足りない。だから減量して８５ｋｇに落として試合をしている。ヘビーにはちょっと足りないし、８５ｋｇだと毎回減量だ。何だか中途半端な位置に自分はいる。

――　目標は？

パーパリアン　ＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥに出ること。ＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥ王者になること。日本で試合すること。Ｋ−１に出ること。以上の４つ。で、ＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥには出たしタイトルも獲った。だから２つ叶った。今年９月にＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥ横浜大会で日本人とタイトルマッチが決まっている。これで３つ目が達成する。新Ｋ−１は今年上手くスタートできれば来年８５ｋｇトーナメントをする予定らしい。それならこのまま８５ｋｇで続ければ新Ｋ−１参戦が叶う。４つの目標が全部達成できる。そうなれば新Ｋ−１トーナメント王者になることが新目標になるさ。

――　ライバルと思っている選手は？

パーパリアン　そういうのは特にいない。組まれれば誰とでも試合する。

――　じゃあ特に戦いたい相手とかは？

パーパリアン　今後２年の間にグーカン・サキとタイロン・スポーンとは試合しておきたい。

――　モットーは？

パーパリアン　特にそういうのは無い……「人々がみな良い人生であるように」かな（微笑）。

　パーパリアンは人懐っこい。語りも穏やかで温厚さが顔に出ている。おそらく初対面で誰でもすぐに仲良くなれるだろうと思う。ずっと前からの友人のような気分になる。

――ＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥをどう思っていますか？

パーパリアン　最高だと思う。世界規模の最高の舞台だ。そのリングで戦えて本当に良かった。アーツやホーストが、「お前はきっとやれる、きっと王者になれる」って励ましてくれた。みんなが励ましてくれた。有名選手にそんな風に励まされたら誰でもその気になるさ。そしたら本当に王者になれた。将来的にはヘビー級王者になりたい。

――　新Ｋ−１については？

パーパリアン　新Ｋ−１は上手くやっていくと思う。Ｋ−１を見てキックボクシングをやろうと思った選手がたくさんいる。オランダにはヘビー級もＭＡＸ（７０ｋｇ級)もＫ−１王者が身近にいる。だから多くの選手が刺激を受けた。若手はみんな日本での試合を目指した。Ｋ−１の失敗を反省材料にして新Ｋ−１はきっと成功するだろうと思う。

――　今回の対戦相手のテイトについては？

パーパリアン　ノリが良くていい奴さ。いい試合になると思う。１０００ユーロ賭けようと言うから、５０００にしようって返答した。そしたら返事が来ない（笑）。ファイトマネーがなくなっちゃうもんな（笑）。僕はＯＫさ。

　ともに世界タイトルを保持する両者。勝った方は９月のＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥ横浜大会で、松本哉朗（目黒藤本ジム/新日本キックボクシング協会）の挑戦を受けてタイトルマッチをすることが決まっている。興味深い一戦だ。

■サハーク・パーパリアン（マイクスジム所属）
1988年9月4日アルメニア出身23歳　オランダ・アルクマール在住
IT‘S SHOWTIME85kg世界王者/WFCA86.5kg世界王者
56戦45勝７敗４分
ニックネームはハック。

■アンドリュー・テイト（ストームジム所属）
1986年12月1日ワシントン出身25歳。英国在住
ISKA世界ライトヘビー級王者
MMAとキックとモデルの三刀使いのイケ面ファイター。
ニックネームはキングコブラ。

（原稿：遠藤文康）

〜最強打撃格闘技〜 IT'S SHOWTIME
2012・5・12 ベルギー大会
J SPORTS 3にて生放送
05月12日 (土) 27:55 - 30:30