猫ひろし、中東、英国……国籍変更で問われる問題点

及川彩子

明らかにされない猫ひろしの国籍取得方法

カンボジア代表として、ロンドン五輪のマラソンに出場する猫ひろし。さまざまな意見が飛び交っている 【写真は共同】

 お笑い芸人の猫ひろしが、3月25日にロンドン五輪のカンボジアマラソン代表に決定した。彼は2011年6月にカンボジア国籍を取得し、その後、五輪代表を目指してマラソンレースに出場していた。自己ベストは 今年3月の別府大分毎日マラソンで出した2時間30分26秒。これは五輪の参加標準記録(A:2時間15分0秒、B:2時間18分0秒)には遠く及ばなかったが、特別出場枠での参加が決まった。

 猫ひろしが国籍変更をした当初から賛否の声はあったが、代表決定以降は各方面から様々な意見が出てきている。

 まず、カンボジアの国籍取得方法をみてみたい。国籍取得に関しては様々な条件が設けられている。

<主な条件>
1)同国に7年以上継続して居住し、クメール語、歴史を理解していること
2)カンボジア国籍を持つ者と3年以上婚姻関係がある

<そのほか>
3)カンボジアの産業に約2500万円の投資、もしくは同国に約2000万円を現金で寄付した場合
4)同国に特別な功績や利益をもたらすとみなされた場合

 上記3、4に関しては1と2は免除される。
 
 猫ひろしの場合、3もしくは4に該当すると思われるため、法的にはなんら問題はない。批判の多くは倫理観を問うものだろう。会見の際にカンボジアとの関係性やこれまでの支援などについて語ったが、どのような手続きを経て国籍を取得したのかは明確にはしていない。条件の3にあるようにカンボジアに金銭を渡している可能性も否定できない。
 
 報道によると、猫ひろしの代表辞退を求める声もあるようだが、五輪前の国籍変更に関してもめているのは日本だけではない。

中東、英国でも帰化選手が増加

 海外で以前から問題視されているのが、中東諸国が世界でトップクラスのアフリカ人選手(特にケニアやエチオピア)に国籍を与え、自国の代表にしている件だ。
 
 例えば、2010年中国・広州で行われたアジア大会では、フェミセウン・オグノデが200メートルと400メートルで優勝したが、彼は元々ナイジェリアの出身で、2008年にカタールに帰化している。同大会のマラソンで銅メダルをとったムバラク・ハッサン・シャミや3000メートル障害の世界記録保持者のサイフ・サイード・シャヒーンもカタール国籍だが、ケニア出身の選手である。一説によると、シャヒーンは、カタール国籍になった際に1億円以上を受け取ったと言われている。オグノデやシャミも同様だろう。また彼らのように報酬と引き換えに中東諸国に国籍変更した選手は、かなりの人数になると予想される。
 
 もちろん世界中で出生国とは異なる国に国籍を変更している人はたくさんいる。しかし、問題となるのは「スポーツで優遇されるため」や「国籍変更によって報酬を得るため」という点だ。
 
 五輪開催国の英国も、五輪直前になって滑り込みで帰化する選手が増え、問題視されている。3月にトルコ・イスタンブールで世界室内陸上選手権が行われたが、そこに米国生まれ、米国育ちの2選手、ティファニー・ポーター(100メートルハードル)とシャナ・コックス(400メートル)の2選手が出場した。ポーターは母親が英国生まれ、コックスは両親ともに英国生まれで、誕生時から米国と英国の2つのパスポートを所持(※)しているが、ポーターは2010年秋、コックスは2011年秋に手続きを踏んで、英国代表として活動することになった。ポーターは昨年の世界選手権(韓国・8月)で100メートルハードル4位、世界室内陸上で2位、コックスも世界室内で400メートル5位という結果を出している。(※米国、英国ともに二重国籍を認めている)
 
 地元開催となる五輪ではメダルも期待でき、歓迎されるべき状況のはずだが、彼女たちを含め、五輪前に国籍変更した選手たちへの風当たりは強い。ファンやメディアの中には「彼女たちが英国人としての誇りや忠誠から英国チームを選んだのではなく、米国よりも代表になるのが楽だからだ」、「いくらもらって英国代表になったんだろうな」、「彼らがメダルを取っても全くうれしくない」などと辛らつな意見を言う者もいる。
 
 「Plastic Brits(えせ英国人)」
 
 これが彼女たちにつけられたニックネームだ。生まれた時からパスポートを持っているにも関わらず批判されている現状は少々、酷な気もする。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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