猫ひろし、中東、英国……国籍変更で問われる問題点

及川彩子

帰化に好意的な米国 その理由とは……

北京五輪で米国の騎手を務めるなど、スーダン出身ながら、米国の一員として認められているロモン 【Getty Images】

 一方、国籍変更をファンやメディアも好意的に受け止める国がある。移民大国・米国がその好例だ。北京五輪では男子1500メートル代表3人はすべて他国生まれの選手(ケニア、メキシコ、スーダン)だったし、ロンドン五輪の男子マラソン代表に決定している3選手中2人は、ともにエリトリア生まれだ。また、米国の体操界は東欧などから移民してきた人たちがコーチをしていることも多く、彼らの子どもたちが米国代表となって活躍していても、彼らに注がれる眼差しは温かい。
 
 米国に帰化した選手たちが、猫ひろしや中東、英国の選手たちと異なるのは、彼らには幼いころに家族と移住もしくは政治的な理由で難民になり、米国で暮らさざるを得なかったなどの事情があるためだ。また、彼らは皆、米国人として土地に根を生やして、生活しているため、五輪の代表になっても異論など出ない。北京五輪の開会式では、陸上1500メートル代表のロペス・ロモンが旗手を務めた。ロモンは元スーダン難民だが、彼が旗手になる事を米国の各競技のキャプテンが満場一致で決定したという逸話もある。

問題は倫理面 ビジネスに発展する可能性も!?

 各国で物議を醸しているといっても、上記の例はすべて法的には一切問題がない。問題は倫理面だろう。国民感情によって国籍変更に関する法律が変わるとは思えないが、他国出身の選手が代表となって五輪に出ることを快く思わない人が多いことも事実だ。

 猫ひろしは五輪後、カンボジアに住む予定はないと言う。そのため、「カンボジアに金銭を渡して国籍を取得。つまるところ五輪出場権を得るためだけに国籍を取得した」という意見が出ても仕方ないだろう。猫ひろしのケースを真似て、五輪や世界出場を考え始める人がいてもおかしくないし、貧しい国がビジネスとして利用することも十分ありうる。
 中東諸国によるアフリカ人選手の輸入に関しては、『現代の奴隷制度』と批判する声も上がっている。アジア大会でオグノデは、「カタールには住んでいないよ。今でも僕も家族もナイジェリアに住んでいるし、練習は欧州とかいろいろ」とケロリとした口調で話していた。「何が問題なの?」と言わんばかりだった。彼らからすれば、自分の才能や成績にほれ込んで出資してくれるメーンスポンサーが企業やスポーツメーカーではなく、国だったという認識なのだろうか。
 
 近代五輪の提唱者、ピエール・ド・クーベルタン男爵は、「五輪で重要なことは、勝つことではなく参加することである(※日本オリンピック委員会HPより)」と有名な言葉を残したが、諸処の理由で国籍を変更し参加する国や選手が増えたことを、どう思っているのだろうか。クーベルタン男爵が五輪の行く末を案じているように思うのは私だけだろうか。

<了>

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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