花巻東・大谷が“一流”である2つの理由=どん底をバネにさらなる高みへ

田尻賢誉

大谷の非凡な修正能力

メジャースカウトも注目する大谷。甲子園の初戦で、大谷と同じくドラフト上位候補である大阪桐蔭・藤浪と投げ合う 【写真は共同】

 そして、もうひとつの修正能力――。

 こちらは、すでに夏の甲子園で片りんを見せている。左足の故障で投球時に強く踏み込むことができないため、ステップは通常の6.5足から4.5足に狭めた。本来のフォームからはほど遠い“立ち投げ”だったが、それでも高校2年生の投手としては駒大苫小牧・田中将大(楽天)以来となる150キロをマークした。
「左足で踏ん張れず、(体重を)乗せられないので、右足が前に行ってしまって(地面から)離れるのが早かった」と言いながら、天性の腕の振りとやわらかさでカバーした。「歩幅が狭い分、角度はつけられる」。悪いなりにできることを考える。これこそ、大谷が常日頃から心がけているテーマでもある。
「試合で調子が良いことはほとんどない。そこでどれぐらいのピッチングができるかが大事だと思っている。調子が悪ければ、大きなカーブを投げてストレートを速く見せたり、組み立てを変えて修正する」

 それだけではない。フォームもおかしいと思えば、微調整ができる。
「フォームはどれか1カ所直せば全部直るものだと思っています。肘が上がらないときは前に流れたりしているので、(投球練習で)上げた足を下ろして一回止まって投げるとか、重心が右足にあることを確かめてから出ていったりとかします。そういうことで、開きや前への突っ込み、ひじの遅れも直るので」

 これに加え、打者に対している最中でも、違和感があればこんなことをする。
「ランナーがいるときはけん制でやったりもしますし、カウントによっては1球外してフォームの調整をすることもある。試合の中でも修正することを大事にしています」
 フォームのブレやズレを修正するために1球外す。こんなことができるのは、全国広しと言えど、大谷ぐらいだろう。

「楽しみ」な甲子園で投げられる喜び

 コントロールは良く、四死球で自滅するタイプではない。我慢ができ、精神的にキレてしまうタイプでもない。技術的な問題点も即座に解消できる。普通に考えれば、大崩れすることは考えにくい。
 問題点を挙げれば、故障によるブランクで公式戦から遠ざかっていること。昨夏の甲子園以来の公式戦マウンドが、初戦の大阪桐蔭戦になる。大谷本人も「尻上がりに良くなる」と言うタイプだけに、緊張感や気負いの出やすい立ち上がりがポイントになる。あとは、競ったときの後半のスタミナぐらいか。

 とは言え、今の大谷ならそんな懸念材料も吹き飛ばしてしまいそうだ。練習試合解禁日となった3月8日の東大阪大柏原戦では2本塁打。打ってもドラフト1位レベルと言われる打撃は好調を維持している。そして何より、投げられる喜びがある。
「ストレートを投げるとき、最近は人指し指の方にかかってるんです。前までは中指の方が強かったんですけど、両方にかかる感じになりました」

 左足の不安が消え、しっかりと踏み込めるようになったことで指のかかりが変わってきた。指先のマメがそれを物語る。昨夏の150キロは軽く超える予感すら漂う。
 甲子園で、すごいボール来るんじゃない?
 そう問いかけると、大谷はこう言って笑った。
「来てくれればうれしいです。秋はどん底じゃないですけど、自分としてはショックも受けました。でも、下がるから上がる。バネになって、これからどこまで上がるのか、自分の中で楽しみな部分もあるんです」

 17歳にして一流の条件を満たす大谷。本来のフォームで、本来の投球さえできれば――。今日も、明日も、あさっても、一流にしか演出できない新たなドラマを生み出してくれるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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