すでに始まったソチ五輪への序章 ロシア、米国からメダル候補続出=フィギュア・世界ジュニア女子シングル

野口美恵

すい星のごとく現れた米国の大本命 パワージャンプで飛躍

米国のゴールドはジュニアGP1戦のみの出場だったが、高い能力を見せて銀メダルを獲得した 【森美和】

 さらに大会の台風の目となったのは、米国の16歳、ゴールドだ。ショートでは猛スピードの助走から踏み切るダイナミックな「トリプルフリップ+トリプルトゥループ」を成功し、身体能力の高さを示した。さらに本領発揮となったのはフリー。男子顔負けの雄大な「トリプルルッツ+トリプルトゥループ」は最高評価の「+3」を出したジャッジがいたほどで、「ダブルアクセル+トリプルトゥループ」もほとんどのジャッジが「+2」評価。どちらのジャンプも、バンクーバー五輪のキム・ヨナ級の高評価だ。

 最後までスピードも落ちず、観客の心をグングンと引っ張っていく演技。あっという間の3分40秒でフリー2位につけ、総合171.85点で銀メダルを獲得した。「まさかこんな素晴らしいシーズンになるなんて思いませんでした。本当に今日の演技は、自分を褒めてあげたいです」。

 7歳でスケートを始め、昨季までは国内大会にしか出場していなかった。昨夏の国内大会で好成績を残し、ジュニアGPの派遣が決定。その、人生初の国際大会でいきなり172.69点をマークし優勝したのだ。遅咲きともいえるゴールドは、すでに身長163センチで体が出来上がっている。これから成長してジャンプが崩れるという不安要素は、他の選手に比べると少ないのも魅力だ。

 表彰式。銀メダリストは、先に表彰台に立っている金メダリストにハグを求め称賛するのが習わしだ。しかしゴールドは何もせず2位の台に乗った。銀メダルが不満という行動ではなく、それだけ国際大会に慣れていない証拠だった。

「今まで五輪なんて考えたことなかったけれど、ソチ五輪に出られるなら出たいわ」。怖いもの知らずの16歳が、米国女子の壮絶な五輪枠争いに加わった。

それぞれの光を放った日本ジュニア 13歳の宮原が大健闘の4位

今季ジュニアデビューを果たした宮原知子は強豪ぞろいの中で4位と大健闘 【森美和】

 日本は、13歳の宮原知子(関大中・高スケート部)がノーミスの演技で4位(157.78点)。山田満知子の門下生、佐藤未生(グランプリ東海クラブ)は12位。右足をけがしていた庄司理紗(西武東伏見FSC)は20位。それぞれ収穫のある戦いぶりだった。

 最高の演技を見せたのは宮原。フリーでは「トリプルルッツ+トリプルトゥループ」と「ダブルアクセル+トリプルトゥループ」を成功し、技術面の高さを示した。身長143センチと小さいが、今後スピードをもっとつけて演技のダイナミックさが加われば、演技構成点(表現面)の点数も上がる。「すごい選手ばかりの中で4位に入れたのがうれしいです。3回転+3回転をどうしても跳びたかったので気合で頑張りました」と、見事なジュニアデビューのシーズンを締めくくった。

 ジャンプの質で印象を残したのは佐藤だ。ショートはジャンプミスで出遅れたが、フリーはスピードのある「ダブルアクセル+トリプルトゥループ」や、高さのあるトリプルルッツを決め、総要素点(技術面)では7位。総合12位となった。「不安と緊張の中でここまでの演技をできたのが自信。これからは表現力を伸ばしたいです」と笑顔を見せた。

 庄司は、試合2週間前に右足の甲をけがして、歩くことすらつらい状態。フリーはジャンプを簡単なものに変更し「滑り切れるか分からないですが、痛くても試合には出る」と言ってリンクへ。痛みをこらえて3分40秒を滑り終えると、笑顔が漏れた。けがを抱えながらも試合から逃げなかったことは、精神的な自信につながっていくだろう。

 ソチ五輪まであと2年。ジュニア女子にとって大切なのは、今回の順位ではなく、この2年間でどう変化するか。細くて人形のような体のロシア女子たちが驚異的なジャンプを維持し続けるのか、体格の大きさを生かしてパワージャンプを跳ぶアメリカ勢がさらに伸びるのか、またはジワジワと成長している日本ジュニアが追いつくのか。2年後に向けたコマは出そろった。フィギュアスケートが最も盛り上がる2シーズンは、ここからだ。

<了>

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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