柿谷曜一朗、早熟の天才が過ごした雌伏の時=精神的な成長を遂げ、“帰るべき場所”へ

小田尚史

C大阪へ帰還「帰ってくるべき時が来た」

2年半に及ぶ徳島でのプレーに終止符を打ち古巣復帰を果たした柿谷(右下)。清武ら実力者がそろう攻撃陣とどう融合していくのか注目だ 【写真は共同】

 そして2012年、柿谷はC大阪に帰還した。このタイミングについて、チーム編成を司る梶野智強化部長は、「帰ってくるべき時が来たということ。それがすべて」と話す。時を同じくしてクルピもC大阪を離れたが、柿谷本人が、「クルピ監督がいなくなったから、戻ってきたと思われるかも知れないけど、それは関係ない。クルピがいたとしても、戻ってくる選択をした」と話すように、大きな問題ではない。

 では、“帰ってくるべき時”とは何を指すのか。それは、生まれ育ったC大阪で雄姿を見せるための、柿谷の状態が整った、ということだろう。新加入(復帰)会見の様子からも、本人のやる気は伝わってくる。「僕が育ったのはC大阪であり、またここでプレーしたい気持ちがいつもどこかにありました。C大阪から話があった時、もう一度チャンスをもらったと思いました。今年のクラブの目標はタイトルですが、僕ら前の選手がたくさん点を取ることによって、それに近づく。結果にこだわってチームに貢献したいです」。

 そして、徳島で得たものとしては、「試合に出られる喜び。チームメートと一緒に試合で勝つ喜び。負けることの悔しさ。チームとして戦うこと」を挙げている。放出の際にクルピが苦言を呈した「チームやサポーターに対する敬意が見られない」という部分に関して、問題は解消されたと見ていいだろう。

清武らとの融合はいかに

 C大阪でのデビュー時から柿谷を知り、今季は主将に就任したC大阪一筋8年目の藤本康太も、柿谷の変化を感じ取る選手の一人だ。始動2日目の練習後、「今日の練習でも早く来ているし、成長したのかな」と目を細めた。ただし、次のような一言も付け加えた。「どんなプレーをするのか、早く見てみたいですね」。

“どんなプレーをするのか”。プロサッカー選手である以上、そこが事の本質だ。どんなにメンタル的な成長を遂げようと、C大阪に対する思いが強かろうと、プロはピッチ上での結果がすべて。そんなことは、本人も百も承知だと思うが、柿谷が見せるべきは、グラウンドでの活躍ということになる。昨季終盤は、J1昇格を目指すチームの勝利を第一とするプレーを続けていた柿谷だが、C大阪では、献身的なプレーに加えて、攻撃面での個の能力の違いを見せなければ、スタメン奪取はおぼつかない。前線でスタメンを争うライバルは、つわものぞろいだ。

 2列目には、清武、キム・ボギョンの日韓A代表コンビに加え、昨季終盤にブレイクした2年目の村田和哉、そしてセルジオ・ソアレス新監督が直々に日本に呼び寄せたブランキーニョが集う。FWも、昨季のブラジル全国選手権で13点を挙げたケンペスに、杉本健勇と永井龍の伸び盛りのU−23コンビ、J1通算100ゴールまであと15点に迫った播戸竜二も健在だ。この中から、新監督のお眼鏡にかなうプレーを見せなければならない。

「DFラインと中盤を4枚の2ラインにして、2トップの1.5列目に清武を置き、彼を自由にプレーさせるプランもある」「清武、キム・ボギョン、ブランキーニョの3シャドーも、可能性のひとつ」。宮崎キャンプに行くまでの間、大阪市内の練習場で発した新監督の構想に、柿谷の名前は出てこなかった。ただし、それはある意味当然でもある。監督が見た昨季のC大阪の試合映像に、柿谷の姿はないからだ。だからこそ、宮崎キャンプは、自分のプレーに対する予備知識の少ないソアレス監督にアピールする絶好のチャンス。昨季、チーム全体で67得点を挙げた魅惑の攻撃陣に、柿谷がどのような色を加えるのか。それが、今季のC大阪の注目点の大きな一つである。

 チームの大黒柱であり、柿谷が「一緒にプレーするのは楽しみ」と話した清武は、残念ながら五輪代表の練習試合で全治6週間のけがを負って離脱したが、清武復帰後の2人の“競演”にも期待が集まる。ミスターセレッソ・森島寛晃氏に始まり、近年の香川、乾、家長、清武、キム・ボギョンと続いたC大阪アタッカーの歴史に、柿谷がその名を刻むことができるか。遅れてきた“天才”の、真のチャレンジが始まった。

<了>

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著者プロフィール

1980年生まれ。兵庫県出身。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、幼少時よりサッカーを始める。中学入学と同時にJリーグが開幕。高校時代に記者を志す。関西大学社会学部を卒業後、番組制作会社勤務などを経て、2009年シーズンよりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』のセレッソ大阪、徳島ヴォルティス担当としてサッカーライター業をスタート。2014年シーズンよりC大阪専属として、取材・執筆活動を行なっている。

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