反町康治監督「ここに骨を埋めるつもりで」=J2初参戦・松本山雅FCで再出発を切る

元川悦子

リラックスした表情でインタビューに応じた反町康治監督 【元川悦子】

 2011年初頭の松田直樹移籍、8月の彼の急逝によって、日本中から注目を浴びることになった松本山雅FC。彼らは紆余(うよ)曲折を乗り越え、12年のJ2初参戦を果たした。だが11年途中からチームを率いた加藤善之GM(ゼネラルマネジャー)がS級ライセンスを保有しておらず、誰が後を引き継ぐのかが懸念材料になっていた。
 その大役を引き受けたのが、北京五輪代表を率いた反町康治監督だった。新潟、湘南を2度J1へと導いた経験を持つ日本サッカー界屈指の大物指揮官だ。彼ほどの実績を誇る人物がなぜ地方の小クラブへと赴いたのか。松本というプロの第一歩を踏み出したクラブで一体、どんな仕事をしたいのか……。就任直後の彼に単独インタビューを試みた。

ゼロからのスタートを切るクラブ

――反町さんの監督就任に驚いたファンも多いと思います。改めて伺いますが、なぜこのクラブを選んだのですか?

 それは松本の大月(弘士)社長がおれを指名したから。何回も繰り返して言ってるけど、この仕事はオファーがないとできない。誘いを待ってる監督はたくさんいるのに、そういう人に限って、話があっても行かなかったりする。それで「仕事がない」って人に言ってるんだから、世の中ってのは不思議だな。
「少し休んで……」という選択肢がなかったわけでもないけど、もう少しこうしたい、トライしたいっていうアイデアが、寝る前や車を運転してる時なんかに次々とわき上がって来る。それが枯渇して全く出てこないっていうなら休んで刺激を受けた方がいいかもしれない。でもそうじゃないなら、現場で向上心を持ってやってた方がいいと思ったんだ。

――松本に対する具体的なイメージはお持ちでしたか?

 あんまりないな。ギリギリでJFLからJ2に上がった、スタジアムがあるなっていうくらい。アルウィン(松本の本拠地)では新潟時代に甲府と試合をしたことがある。「川中島の戦い」という触れ込みでやったことがあるでしょ。
 松本はそのスタジアムという大きなメリットを生かして昇格したよね。そして今年、プロクラブとしてゼロからのスタートを切る。おれ自身も監督になって10年がたったし、もう1回初心に帰るつもり。自分をリセットしてサッカーの根源をしっかりと見直して、やっていこうと思ってるよ。

――J2に上がったばかりのチームを率いるという意味では、新潟と重なる部分が多いのではないですか? 01年の新潟と12年の松本を比較すると?

 新潟の時は最初、2000〜3000人の観客動員だったけど、松本は7000人も来てる。29日の新体制発表もまつもと市民芸術館でやったけど、5000人分のチケットが相当前に売り切れたと聞いてる。これは力強いし、ありがたいね。
 ただ、新潟もそうだったけど、そういう状況が日常になってしまうと熱が冷める。松本を散歩した時、飲食店のほとんどに山雅のポスターが貼ってあったけど、それをはがされないように日々努力をしないといけない。
 サッカークラブの力関係、ヒエラルキーというのは、相当努力しないと変わらない。専門誌の順位予想を見ると、ウチがJ1昇格プレーオフ参戦の6位以内に入ると予想してるのは1つもない。しかも降格候補だ。われわれは22位からの出発。だからこそ、できることもたくさんあると思ってるけどね。

――クラブの運営規模は6億程度になりますが、これは01年の新潟より多いですね

 Jリーグに参入したばかりのクラブにしては結構いい数字。水戸なんか今もまだ3〜4億しかないし、町田もかなり苦しいという。資金面で今季のJ2を見ると、京都が断トツでわれわれの4倍くらいある。次いで千葉、横浜FC、徳島、福岡、山形あたりかな。湘南は2ケタ(10億)行ってない。山雅はJ2平均より下だけど、少しは可能性があると思うよ。

当たり前のことが、当たり前じゃない。だからやりがいがある

――選手は昨季JFLを戦ったメンバーに、野澤洋輔、久木田紳吾、喜山康平、益山司ら数人を加えた31人体制になりましたが

 年齢構成は01年の新潟の方が上だった。ただ、今の山雅は選手獲得ラインが横浜FC、流通経済大、東京ヴェルディの3つしかない。加藤GMとヘッドコーチの柴田(峡)がその関係の仕事をしてたからだろうね。J1なら3人くらいいるスカウトがいないんだから仕方ない部分はある。新潟も04年にJ1に昇格するまで同じ状況だった。そこまで人件費が回るようになって、初めてプロとして強くなるんだと思うよ。

――今年の選手たちをざっと見た印象は?

 思ったより声が出るやつが多いし、ハードワークできるやつもいる。それはいいことだね。あとヤンチャなやつが多いな。

――木島良輔・徹也兄弟がその筆頭ですね

 羽目を外さなきゃ、おれはヤンチャなやつは嫌いじゃない。爆発する可能性を秘めてるからね。徹也の方は何かしら持ってる感じがある。昨季のJFL得点ランキングを見ると、上位に名を連ねているのは徹也1人。それ以外でゴール数が多いのはDFだ。タレントって意味ではかなり苦労するだろうね。

――選手たちの技術レベルはいかがですか?

 19日の始動から数日間の練習を見て思ったのは、イージーなミスが多いってこと。スキルの部分は京都、湘南の方が残念ながら高いね。最初のゲームだった22日の松田直樹の追悼試合でも、判断、攻撃、守備のスピードが足りないってことがよく分かった。
 具体的に言うと、ボールを奪ってワンタッチでパスすべきところで、1回止めてから出してる。それじゃ遅いわけだよね。あの試合なんかはそんなにプレッシャーが強いわけじゃないのに、時間をかけて2タッチでやったりしてた。JFLではそういう基準だったかもしれないけど、今はJリーグだからね。おれにとっては当たり前のことが、ここでは当たり前じゃなかった。だからこそ、やりがいがあるってことだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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