反町康治監督「ここに骨を埋めるつもりで」=J2初参戦・松本山雅FCで再出発を切る

元川悦子

まずは中位に入れるように

松本アルウィンには今季も多くの観衆が訪れそうだ 【写真:アフロ】

――それでも反町さんは新潟、湘南を昇格させた経験があります。特に湘南は10年もJ2にいて「中位のメンタリティー」が染みついていたのに1年でガラリと変えましたよね

 選手たちが持ってるもののレベルを引き上げることしかない。1日1センチずつ伸びれば全員で11センチになり、1週間で77センチ伸びていく。みんなが高いところまで到達すれば、全体の平均値も上がるからね。湘南の1年目はそれができたのかな。まあ、相手もマークしてなかっただろうけど(苦笑)

――松本もやりようによってはサプライズを起こせるのでは? 新潟も就任1年目の終盤、J1昇格争いに参戦しました

 新潟の時は途中からビッグスワン(※東北電力ビックスワンスタジアム)ができて、お客さんが入るようになったんで、お金が使えるようになったんだよ。それで外国人を取れた。最後にギリギリ上位争いができて4位に食い込めたのも、アンドラジーニャの存在がすごく大きかった。

――松本は当面、外国人補強の予定はないと聞いています

 まあしょうがない。本当はもう少しスリム化して、かけるところにお金をかけた方がいいと思うけど……。おれ自身、来年のことは保障されてないし、先のことは何とも言えないな。サッカーの監督は衆議院議員と一緒で3〜4年のサイクルが理想だと思うけど。いずれにせよ、今年は土台作りをするとしか言いようがない。まずは中位に入れるように頑張るつもり。7〜14位くらいだな。

――今季のJ2は京都が突出している印象ですけど、それ以外は実力的にかなり拮抗(きっこう)しているのでは?

 そうだな。今のJ2はボールポゼッションがほとんど5−5のイーブンだ。ウチはJFLから上がったチームだから、相手がボールを持ってる前提でチームを作る必要がある。保持率40パーセントか45パーセントで考えないといけないな。

 今は世界中がバルセロナのサッカーをまねする傾向が強い。だけど、あれはバルセロナしかできない。同じことをしていたらチームは崩壊する。自分たちの身の丈に合ったサッカーをしきゃいけないんだよ。
 かといって、守備一辺倒のチームを作る気は一切ない。守備も攻撃もやらなきゃ面白くないし、今のサッカーは両方できないとダメ。南アフリカワールドカップの後、ドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督も「一生懸命守ろうとしても失点する時代だ」と言っていた。だとしたら、自分たちから点を取りに行くような攻撃的姿勢を常に持っていなきゃいけないと思うよ。

 おれはシステムにはこだわりはない。新潟でも湘南でもかなり変えながら戦った。松本でも早くチームの戦術を構築したいね。あんまり欲張らずにやっていくつもりだよ。

ここに骨を埋めるくらいのつもりでやっていく

――松本は新潟に行かれたころのように、環境面も整っていません。専用の練習場やクラブハウスもないですし、スタッフの数も足りない。そのあたりはどうお考えですか?

 環境面は湘南も決して良くないと思ってたけど、ここはもっと良くないことが分かった。天然芝は養生期間の問題があって春まで使えないって聞いてるし、人工芝も毎日使えるわけじゃない。野球場の外野や公園を使うことも出てくるだろうな。
 始動日翌日の1月20日と21日は、大雪で人工芝グランドが使えなくなった。21日なんかは朝からスタッフ総出で雪かきしなきゃいけなくて大変だったよ。22日の試合前なんか、選手たちが『久しぶりに芝生でできる』って喜んでたくらいだね。
 それでも、地元のニュースを見ると、松本市がクラブライセンス制度導入を念頭に置いて、予算を計上してクラブハウスと練習場を作ることを検討課題にするという話になってた。それが本当なら、新潟の最初よりはかなり進んでるとは思うよ。

――ただ、人工芝の練習が多くなると、ケガ人が続出しかねない不安がありますね

 楠瀬(章仁)なんか両ひざの半月板を痛めてるから厳しい。今後、そういう選手がもっと出てくるだろうな。フィジカルコーチのエルシオに来てもらったのは、少しでもケガ人を減らそうという狙いがあってのこと。湘南もエルシオが来てからケガ人が出なくなった。これから山雅もブラジル人選手も獲得する可能性もあるだろうし、彼がいれば礎を作っておけるというメリットもあるしね。

――流通経済大から根本雄一郎コーチを連れてこられたのも1つの注目点ですね

 映像担当だな。名古屋みたいにノーインフォで戦う力があればいいけど、分析して勝てた試合も今までいくつかあった。最低限のインフォメーションがないといけないと思ってる。クラブ側がそのための部屋を今年は用意してくれることになった。試合を見ながら「この場面を抜いてくれ」って作業を喫茶店でやるわけにはいかないしね。選手をケアする場所もできるし、少しずつ現場を取り巻く環境は良くなってるよ。

――アルウィンへのアクセスも問題ですが

 確かにそう。ホントに田んぼしかないところだからね。J1へ行こうと思うなら、そういう部分も改善しないといけないな。
 ただ、城福(浩=甲府監督)さんが「これからはプロヴィンチャ(地方の小クラブ)の時代だ」って言ってるのは同意できる。伸びていく可能性がまだまだあるからね。
 おれ自身もちょっと前まで都会が好きだったけど、松本は水も野菜もおいしくて空気もきれいだね。まあ正直、練習着を自分で洗うことになるとは思わなかったけど、キャリアっていうのは時々、そんな回り道もあるもの。やるからには、ここに骨を埋めるくらいのつもりでやっていくよ。

新参クラブをどこまで引き上げられるのか

 反町監督ほどの輝かしいキャリアがあれば、J1のビッグクラブ、あるいは再び代表スタッフ入りも十分考えられたはずだ。しかし彼はあえてプロヴィンチャを選んだ。高年俸でもなく、選手も環境もそろっていない松本という場所で、初心に帰って再出発を切りたいという強い意欲があったからだ。

 サッカー監督は現場を続けてナンボ。現場にこそ新たな発見がある。そんな信念を持つ反町監督がJ2入りしたばかりの新参クラブをどこまで引き上げられるのか。大物指揮官のチーム作りとさい配を興味深く見守っていきたいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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