２０１２年の幕開けとなるＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥ（イッツ・ショウタイム）はオランダ大会がスタート。といっても開催地はアムステルダムではない。アムステルダムは格闘技系スポーツに難色を示す市長の意向が影響してキックボクシングもＭＭＡも当面は開催不能という状態になった。市長が交代すればまた開催されることになるだろうが、それがいつになるのかは分からない。

　サイモン・ルッツ会長は、『別に構わないさ。アムステルダムは大きいイベントが欲しいと言いながら我々のようなキャリアのあるビッグイベントに許可を出さないという矛盾した対応をしている。格闘技の選手は犯罪者が多いという主張らしいが、問題を起こすのは限られた選手一個人であってイッツ・ショウタイムや興行団体が問題を起こしているわけじゃない。イベントの税収確保を考えないなんて行政長としては問題ありだな。市長の代わりなんて幾らでもいるが、イッツ・ショウタイムの代わりはいない。私は別に構わない。喜んで迎えてくれる街で開催するだけのことさ。今回はレーワルデン市で開催だ。やるならお互い気持ちよくやりたいね』。
　ということで今大会の開催はオランダ北方に位置するレーワルデンというオランダ・フリースランド州の州都。同じオランダ語でもかなり訛りを持つ地帯で、日本で例えると東北にあたる地域だ。

■イッツ・ショウタイムの本拠地に乗り込む日菜太

　そのレーワルデンへ日本から日菜太が乗り込んで来る。昨年７月のイッツ・ショウタイム・ジャパン（ＳＴＪ）旗揚げ戦ではジョルジオ・ペトロシアンと激突したものの、体に染み付いたバックブロー癖が出てしまい減点ポイントで判定負けを喫した。
　今回はイッツ・ショウタイムの本拠地オランダでの試合だ。まさにアウェイそのもの。当初はゲーゴ・ドラゴとの対戦が提示された。日菜太にノーの返答はない。本体からの試合オファーは受けるしかない。ところが数日してドラゴが対戦拒否をイッツ・ショウタイム本部へ伝えた。ドラゴにとって日菜太は相性が良くないというのが理由だ。日本で対戦するのはかまわない。結果がどうであれ気にしない。しかし自らの生活空間の地元で、大勢の仲間の前で仮に負ける様なことがあれば、それは取り返しのつかない危険性がある。

　そこで抜擢されたのがアンディ・リスティだった。リスティについては日本ではあまり知られていない。一昨年、藤原道場所属の金統光選手がメジロジムでの練習でオランダに滞在していた際に、メジロ主催大会でこのリスティと対戦した。
　当時リスティは全くの無名選手だったため、「様子を見ながら試合をすすめよう」金選手はそう考えていた。しかしスタスタと歩くように近づき圧力をかけてきたリスティは、あっという間の左ストレートで金をマットに葬った。まさに秒殺だった。メジロジムのアンドレ・マナート会長も『なんじゃありゃ。あんな強いとは思わなかった……』と驚嘆していた。
　昨年９月、ベルギーで開催されたＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥ７０ｋｇワンデイトーナメントでリスティは第１リザーバーに登録され、ベテランのウィリアム・ディエンダーを倒している。実力的にトーナメント本戦に選ばれていてもおかしくないのがリスティなのだ。

　リスティは南米スリナムに住んでいる。試合があるときに長時間フライトでヨーロッパにやってくる。いつも早目にオランダ入りしてアーネスト・ホーストの指導を受けている。オランダの植民地だったこともあり、スリナム人はオランダに１００万を超える人数がいる。移住した初代はみなかなりの年配となり、今では三世四世あたりが主流だ。もちろんオランダのキック人口の半数以上をスリナム民族が占める。

　そんな中でスリナム本国から頭角を現してきた選手はリスティが初めてだ。つまりリスティはいわゆるオランダ・スリナム系ではなく、れっきとした南米人であり、むしろブラジル人をイメージした方がいいのかもしれない。リスティはスリナムの首都パラマリボに住むが、周囲はジャングル。そこで遊び育った彼は基本的に肉体は敏捷な野生児であり精神は自然児である。

　最近リスティはコーチをアーネスト・ホーストからＬＣＣカルビンジム会長のルシアン・カルビンジムに変えた。さらなるステップ・アップを目指すため、と本人の弁。カルビン会長に言わせると、『自然なスタイルで自分なりにやってきたのだろう。悪くはないがダメだな。矯正しなければならない点がたくさんある。コンビネーションが身についてない。みっちり３カ月ほどステップワークからパンチ技術まで修正して鍛えなおししたい』。
　ベタ足で対戦相手に圧力をかけ、左パンチで勝負していたのがリスティスタイル。それだけじゃダメだというのがカルビン会長の指摘。日菜太対策をカルビン会長に訊くと、『日菜太？　私は彼を何も知らない。でも構わない。リスティの欠点を修正することが先。試合対策はその後。そうだな、ま、試合の１週間前に戦略は立てる。それで十分だ』。
　ふとデジャブを感じた。以前にも同じようなことをカルビン会長から聞いたような記憶が蘇った。そう、あれはヒョードル対ミルコ戦の前。試合の２週間ほど前だった。『対策のためにミルコの試合ビデオを見た。致命的欠点がミルコにはある。一度見れば分かる。 問題ない。ヒョードルが勝つ』。欠点はミルコの足運びだった。試合はヒョードルが圧勝。今頃カルビン会長は静かに日菜太の映像を見つめて分析を終えたことだろうと思う。

　試しにリスティにも日菜太対策について訊いた。『カルビンさんからダメ出しばかりで……。欠点を直すぞ、と言われています。毎日指摘された通りの練習に没頭です。日菜太対策？　試合の１週間ぐらい前に指示すると言われています。それまで何も考えずにやれと言われています』とうれしそうに話した。会長の指導内容に相当満足している様子が表情に出ている。

　カルビン流を一言で表すと、ヒザ使いとパンチコンビネーション、ということになる。これまでのリスティはもっぱら左パンチ主体。カルビン会長の指導で欠点を修復し、ヒザ技術が混じったことは間違いない。対策は試合１週間前でいいという揺るぎない確信も怖い。日菜太が必殺のミドルキックを駆使してリスティをどう攻略するのか。

　ルッツ会長は『ＩＴ’Ｓ　ＳＨＯＷＴＩＭＥはイベントだ。客が中心だ。私は単なる勝ち負けなど期待していない。選手の自己満足のつまらない勝利を見せられるくらいなら、例え負けても場内を盛り上げる選手の方が楽しい。例えばドラゴ。試合は勝ったり負けたり。でも彼はいつも激しい試合で場内を熱くする。だから好きだ。勝ち負けで起用は決まらない。リング上で激しい試合をしてくれる選手はみんなウェルカム。判定狙いの選手は私は好きじゃない』。日菜太とリスティ。結果がどうであれ激しい攻防が期待されている。

（テキスト・写真：遠藤文康）

〜最強打撃格闘技〜 IT'S SHOWTIME 2012・1・28 オランダ大会
スペシャルゲスト解説：魔裟斗
解説：布施鋼治　実況：矢野武

■Part1　【日菜太出場予定】
ヘンリ・ファン・オプスタル VS ハフィッド・エル・ボウスタティ（70kg Max）
アンディ・リスティ VS 日菜太（70kg Max）
サハーク・パーパリヤン VS ムラッド・ボウジディ（95kg Max）
リカルド・ヴァン・デン・ボス VS ベン・エドワード（ Heavy Weight）
ローシン・オズニ VS ヨハン・リドン（It's Showtime world title73kg Max）
タイロン・スポーン VS メルビン・マヌーフ（Heavy Weight）
【生中継】01月28日（土）25:55 - 27:55　J SPORTS 2
01月29日（日）18:00 - 20:00　J SPORTS 3（同日放送）

■Part2　【バダ・ハリ ラストマッチ】
マイケル・ドゥート VS アンダーソン・シルバ（Heavy Weight）
ハルト・グリゴリアン VS クリス・ンギンビ（70kg Max）
エロール・ジマーマン VS リコ・ヴァーホーヴェン（Heavy Weight）
ムラット・ディレッキー VS ロビン・ファン・ロスマレン（70kg Max）
ダニエル・ギタ VS ヘスディ・カラケス（It's Showtime world title Heavy Weight）
グーカン・サキ VS バダ・ハリ（Retirement Fight　Last kickboxing fight of Badr Hari　Heavy Weight）
【生中継】01月29日（日）04:55 - 07:30　J SPORTS 2
01月29日（日）20:00 - 22:00　J SPORTS 3（同日放送）

〜最強打撃格闘技〜 IT'S SHOWTIME スペシャル 欧州格闘技最前線　【再放送中！】
IT'S SHOWTIMEのリングに上がる中心選手をオランダ、イタリアにて取材し、ジムでの練習風景や独占インタビューなどで彼らの強さの秘密に迫ります。また通常の中継ではお見せすることのできない、大会のバックステージの模様も公開。さらに、来年1月の大会に出場が決定している日菜太選手にも密着。練習の模様や大会に向けた意気込みを語ってもらいます。IT'S SHOWTIMEの魅力が満載の1時間！
01月27日（金）23:50 - 24:50 J SPORTS 3
01月27日（金）27:00 - 28:00 J SPORTS 1
01月28日（土）14:15 - 15:15 J SPORTS 3
01月28日（土）22:55 - 23:55 J SPORTS 2