日本に足りないトレーニングと“スペース”への意識=バルサ指導者が見た高校サッカーと育成年代

鈴木智之

ヨーロッパと比べて違いを感じる4つのコンセプト

日本の若い選手に必要な練習や意識を語ってくれたダビッド(左)とカルレス(右)。中央は「サッカーサービス」を率いるジョアン 【イースリー】

――サッカーサービスの2人は高校生へのクリニックを通じて、多くの育成年代の選手と接してきました。日本の若い選手がよりよいサッカー選手になるために、身につけるべきことは何だと考えていますか?

ダビッド 日本の若い選手は技術、フィジカルともに高い質を備えていました。一方で、われわれの観点からすると「サッカーというゲームを理解する」部分において、向上できる面を感じました。日本で多くの試合を見ましたが、ヨーロッパのサッカーと比べて、コンセプトに違いを感じることが4つあります。

――それは何でしょうか?

ダビッド 1つはサイドチェンジがないこと。右、あるいは左、1つのサイドでプレーがスタートしたら、そのサイドでプレーが終わる場面が大半です。逆サイドにボールを回し、空いているスペースを攻略するプレーはほとんど見られませんでした。そして2つ目。多くの場合、ボールは前へ前へと進みます。ボールを奪った瞬間、前にパスを出したり、前にドリブルをしたりと、どんな状況でも前を目指しています。3つ目は、ボールの動きが偏っていること。ボールを保持している状態で相手の守備を崩すためには、ボールが外から中、中から外へと進むことが重要になります。しかし、一度ボールが中に入ると、外へ出る場面はほとんど見られず、多くの場合は外(サイド)でプレーしていました。

 4つ目は、試合のスピードが常に一定で速く、リズムの変化がないことです。サッカーは相手ゴールに近づくにつれて、スピードが増していくのが理想です。しかし、日本の選手たちはどこにボールがあっても常に同じリズムでプレーしています。パスを回す、あるいはボールを下げることで選手がポジションをとり直すなど、オーガナイズを構築する時間もありません。ただし、この提案は日本とヨーロッパの違いであり、どちらが良くてどちらが悪いというものではありません。

状況判断の伴った練習をする割合が少ない

――ヨーロッパのトップレベルの観点から見て、日本の現状を改善するためにすべきことは何でしょうか?

ダビッド われわれは世界中の指導現場を回り、各国のトレーニングを学んでいます。それとともに、トレーニングの内容について分析をしています。日本の場合、素晴らしい技術を持つ選手が多いにもかかわらず、それを試合の中で発揮しやすい状況が作り得ない理由の1つに、“グローバル・トレーニング”という、状況判断の伴った練習をする割合が少ないからだと考えています。

 それは日本だけの問題ではありません。ヨーロッパの一部の国を除いて、アナリティック・トレーニング(反復練習)の割合が多い国が大半です。アナリティックももちろん重要ですが、そればかりだと、状況に合ったプレーをする力はそれほど身につきません。グローバル・トレーニングで「状況把握」や「判断」といった部分を高めることができれば、技術、フィジカル面に優れた選手が多くいる日本は、よりレベルアップすることでしょう。

カルレス われわれは高校生へのクリニックや指導者講習会を通じて、グローバル・トレーニングの利点を説明してきました。日本の多くの指導者、選手が理解して受け入れてくれたことはとてもうれしく思っています。そして、試合や練習における選手たちの行い、態度は素晴らしいものがありました。それは指導者の教えによるものです。選手だけでなく、指導者が熱心に学ぼうとする姿勢や意欲を持っていることは、日本サッカーが将来、レベルアップするためのベースとなるでしょう。

<了>

取材協力: Amazing Sports Lab Japan

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現在、FCバルセロナのメトドロヒーア(メソッド部門)のディレクターとして、練習内容の分析・改善や、コーチの育成等も含めた総合的な部分を担うジョアン・ビラ。カンテラで14年間、シャビら名選手を育てた彼が率いる世界的プロ育成者集団「SOCCER
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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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