日本に足りないトレーニングと“スペース”への意識=バルサ指導者が見た高校サッカーと育成年代

鈴木智之

選手権決勝を見たダビッドは選手の技術の高さを挙げ、市船の和泉(青)について「“数秒後の未来”を予測できる選手」と評した 【写真は共同】

 市立船橋の優勝で幕を閉じた、第90回高校サッカー選手権大会。時を同じくして、バルセロナのキャプテンからジュニア年代まで、あらゆる選手のプレーを向上させる指導のプロ集団「サッカーサービス」が来日し、高校生にクリニックを行った。かつてバルセロナのカンテラ(下部組織)でセスク・ファブレガスやジェラール・ピケらを指導した、カルレス・ロマゴサ。そしてカルレス・プジョルのパーソナルコーチであり、カタルーニャサッカー協会のテクニカルディレクターでもあるダビッド・エルナンデス。サッカーサービスの頭脳とも言える2人は、高校選手権の決勝をどう見たのか――。

市船・和泉は「数秒後の未来」を予測できる選手

――高校サッカーの決勝戦(市立船橋対四日市中央工、2−1)を見た感想を聞かせてください

ダビッド まず、ドリブルなど技術レベルの高い選手が多くいたと感じました。市立船橋の8番(杉山丈一郎)、11番(菅野将輝)はボール扱いに優れ、ボールだけを見るのではなく、どこにパスを出せば優位な状況を作り出すことができるかを考えながらプレーしているように見えました。そして10番(和泉竜司)。彼はドリブルだけでなくパスのセンスが非常に高く、ピッチの中の「数秒後の未来」を予測できる選手だと感じました。

 1つ例を挙げましょう。彼がペナルティーエリアの外でボールを持っていて、前に3人のDFがいます。そこで、1人のDFがボールを奪おうと前に出てくると、もともといたスペースに空きができます。最初、そのスペースは小さなものですが、DFが前に出ることによって少しずつ大きくなります。彼はスペースが大きくなるタイミングを見極めて、そこに入ってくる味方にパスを出していました。さらに、常に自分が有利な状態でボールを受けることのできる場所を探して、ポジションをとろうとしていました。これは良いパサーになるための、一番重要なポイントです。

――四中工の選手で、良いコンセプトのもとにプレーしている選手はいましたか?

ダビッド 四中工はわれわれがサッカーをする上で大切だと考えている「スペースを作り、使う」という部分において優れた選手がいました。7番(松尾和樹)と25番(生川雄大)は次々に移り変わる状況を認知しながら、ボールポゼッションを続けることで、チームにバランスをもたらしていました。また、ボールから遠い場所を見ることができるので、スペースを使って攻撃したり、守備をする能力もあります。

 8番(寺尾俊祐)は、市立船橋の10番(和泉)とは違うタイプの良いパサーです。彼は受け手が次のアクションに移りやすいところへパスを出すことができます。さらに、ボールが逆サイドにある時に、どこにスペースがあって、どこに入っていけばシュートを打つことができるかを見極めながら動いていました。9番(田村翔太)は何度かわざとボールから離れ、ボールを持っている選手が有効に使うことのできるスペースを作っていました。また、DFの視界から消えて裏をとることによって、守備をしにくい状態を作り出そうとしていました。

技術は高いが、スペースを使う意識がない

――試合全体についてはどう感じましたか?

カルレス 一言で言うと、試合のリズム、テンポがとても速いと感じました。両チームともボールをポゼッションせずに、ボールを奪った瞬間に前へ、前へと攻めていました。いわゆる、カウンターアタックの応酬です。ボールをとにかく速く回そうとするので、多くの場合、選手が密集している場所を経由していました。選手たちが集まっていてスペースがない中でも、ドリブルなどの技術が高いため、その状況を解決できている場面もありました。ですが、彼らの持つ技術を生かして効果的にプレーするためには、有利なスペースを探し、そこにボールを運ぶことが必要なのではないかと感じました。

――具体的にはどのようなことですか?

カルレス 四中工は主にサイドを使って攻めようとしていたのですが、一度片方のサイドにボールが行くと、そのサイドから崩すことしか考えていないようでした。ボールが中央にある時は、右も左も使おうとしているのですが、いざ右にボールが行くと、そちらのサイドしか見ていないのです。そして、ボールを持っている選手の前方のゾーンだけを目掛けて進もうとしていました。ボールとは反対側のサイドの有利な状況を探し、逆サイドにボールが出たのは、後半に限って言えば3回だけです。選手たちの技術はすごく高いのですが、スペースを使う意識があまりないため、その技術が生きていない状況が多く見られました。

――スペースを使ってうまくプレーすることは、多くのチームができていないことでもあります

カルレス 試合が経過するにつれて、市立船橋はボールを奪われた後、四中工にボールを前方へと入れさせないために強くプレスにいきました。それによって、ボールがあるところとは反対側に大きなスペースができていました。この試合のポイントは、四中工がカウンターアタックを仕掛けるときに、ボールがある場所と同じサイドしか使えなかったことです。もし四中工に有利なスペースを使うコンセプトがあり、そこへ向けてプレーする習慣ができていたとしたら、結果は違ったものになっていたでしょう。

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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