ニューカッスルの“鈍足”快進撃と古豪の宿命=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

一転、黄色信号点滅の正念場に直面

“準スランプ状態”のユナイテッドだが、ファーガソン(写真)は泰然自若として騒がない 【Man Utd via Getty Images】

 だが、そんな静かなるダークホース「Unbeatoon!」にも、かかるべくしてブレーキがかかった。ダークホースというからには、イングランド競馬の“最高峰障害レース”グランド・ナショナルにたとえて、中盤の難所で三度つまずいて失速。首位を争うマンチェスターの2強に続くチェルシーとの「真価を問われる」3連戦で、1分け2敗と歯が立たなかったのである。

 実は、この結果をほぼ完全予想(覚悟)していたメインオブザーヴァーとは、ほかならぬトゥーンファンだった。彼らはその上で、続く格下相手の4連戦(ノリッチ、スウォンジー、ウェスト・ブロム、ボルトン)で無敗街道に立ち戻り、最終的にトップ10でシーズンを終えればもうけものと計算していたようだ(一部のファンが明言していた)。監督アラン・パーデューも、口にはしないまでも「それに近い」展望を描いていた節がある。それなのに、ノリッチには力負け(4失点)、スウォンジーにはホームでピリッとしない無得点ドロー。一転、黄色信号点滅の正念場に直面している。

 ここで一つ、チームとしての本質的な実力とは別に、重大な事情も生じていた。スティーヴン・テイラーの故障離脱だ。ニューカッスルの大健闘を語る上で忘れてはいけないのが、3カ月経過時点でリーグ最少失点を誇るディフェンスだが、中でも特に貢献度の高い要の男こそ、長い故障スランプから復活した前イングランドU−21代表キャプテンのテイラーなのである。つまり、今季からキャプテンマークを腕に巻くファブリチオ・コロッチーニとの鉄壁センターバックコンビが崩れたことが、肝心なときに手痛いアキレス腱となってしまったと言えるのだ。

 そこで、パーデューは即刻オーナー(マイク・アシュリー)に資金面でかけ合い、1月の有力センターバック補強準備に乗り出した。伝えられるところでは、第一候補にウェスト・ハムのジェイムズ・トムキンズ、続いてマブー・ヤンガ=ムビワ(モンペリエ)の名前が挙がっている。一方で、カバイエ、ティオテらにかかる外からの誘いも断固阻止する構えだ。

 トゥーン命の頼もしい助っ人たち、コロッチーニ、グティエレス、ベン・アルファ、ダヴィデ・サントンらが反攻の強い意思を表明していることもあって、テイラー1人のリタイアに慌てふためくこともないとは思うのだが、やはりそこは復興途上の不確かなチーム事情か、あるいは主力の多くを異邦のプレーヤーに依存している弱みゆえなのか。
 おそらくは、手を打つ姿勢を示すことそのものがパーデューの“使命”なのかもしれない。それなくして、もし転落に歯止めがかからない状況になったとき、彼は全責任をかぶらねばならなくなる運命にあるのだ。それはまた同時に、新たな虎の子の戦力を失う引き金にもなろう。まだ現プレミアにて足元の固まっていない古豪の宿命とでもいうべきか。

“準スランプ状態”のユナイテッドは……

 その点、対照的なのが王者マン・ユナイテッドのアレックス・ファーガソンだ。チャンピオンズリーグ敗退を含む“準スランプ状態”にあると言っても過言ではない現在、サー・アレックスはパーデューとは比べ物にならない故障者の質量と重さに悩んでいるはずだ。ネマニャ・ヴィディッチはシーズン中復帰が絶望(十字靭帯=じんたい断裂)、ダレン・フレッチャーの突然の長期離脱(慢性腸疾患)、加えてアンデルソン、トム・クレヴァリー、シルヴァ兄弟にマイクル・オーウェンも故障リハビリ中、ないしは復帰途上の身だ。

 それでも、サー・アレックスは泰然自若として慌てず騒がず「1月の補強は考えていない」と言う。ごく最近、メディアに載ったガイタン(ベンフィカ)についても「考えたこともない」。その決めぜりふは、まさに今をときめく王者の象徴、そして、この25年間でイングランド歴代最多のタイトルをさらってきた不動の名将そのものだ。
「取るにふさわしいプレーヤーが取れるのなら考える。でも、そんなプレーヤーが果たしているかね? 故障はつきものなんだから対処法も分かっている。うちには名誉ある赤いジャージーを着るにふさわしいプレーヤーがいるんだ。彼らならやってくれる」

 心情的には、アラン・パーデューにも「君たちを信じる。ここまでの成績は決してだてじゃない。君たちにはスティーヴン(テイラー)の分くらい立派に埋め合わせる力がある」と胸を張って欲しいと思う。だが、それが許されないチーム事情、背景、自身の立場、イングランド一“きまじめで口うるさい”サポーター、今では重いだけの伝統……。

 そして、たぶんレッド・デヴィルズ(ユナイテッドの愛称)とマグパイズを分かつ違いは、“幸運の幅”にまで及んでしまうのかもしれない。まだ不確定ながら、今、マン・ユナイテッドにチャンピオンズリーグ復活の可能性が出てきている。スイス・シオンの規則違反(登録外のプレーヤーを出場させた)を重く見たUEFA(欧州サッカー連盟)が、場合によってはスイスの全クラブに対して主催トーナメント参加資格はく奪を検討しているという。そうなれば、せっかくユナイテッドを葬ったバーゼルが一転涙をのみ、繰り上げの恩恵がオールド・トラッフォード(ユナイテッドの本拠地)にめぐってくることになる。

 その可否、是非はともかくも、せめて今シーズンのニューカッスルには、いずれさまざまな幸運まで引き寄せるにふさわしい“チームの格”に近づく、きっかけだけでもつかんでほしいと思うのだ。そのためにも、来る2011年最後のゲーム、アウェイのリヴァプール戦に全力を尽くしてほしい。むろん、それまでの試合にも必勝を期す。目指す真の復活は、まずそこから始まるのだ。

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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